違和感に目をぐいぐいとこすっていたら、何やってんだと福井が寄ってきた。
片目の視界で見ると、呆れたように心配した手つきが私の目元を行ったり来たりする。

「どした?」
「目がしぱしぱする」
「あー、こするなよ。痛くなるから」

目薬貸してみ、と言われたので素直に差し出したのを彼が受け取って、そこ座れと視線で促された。
恥ずかしいことに、私は自分で目薬が使えないのだった。
怖いという訳ではないのだけれど、どうもやりにくくて目を途中で閉じてしまったりする。
大人しく席に着いている私を見て福井がちょっと笑った。

「お前、子供みたい」
「子供でいいので、お願いします」
「はいよ」

この、男子が女子に目薬をさしてあげるという光景がクラスから浮きまくっていることは自覚している。
けれど、一度何かの拍子でやはり目薬に四苦八苦している私をお人好しな福井が手助けしてくれて以来、お決まりのようになってしまった。
なにしろ、福井から全部ああしろこうしろと言い出すのだから。

「目、開けてろよ」
「んー」
「や、口は開けなくていーから」
「なんか、つられて開いちゃうんだよね」
「目薬入っても知らねーぞ。不味いことは確かだな」
「む、……」
「はは」

正論である彼の言葉に慌てて口を閉じれば、再び間抜け面だと笑われた。
手慣れているような福井を見ていると、誰かの世話をすることを厭わない印象を持つ。
善い人だ、本当に。

「んじゃ、何も考えないでぼーっとしてろ。そしたらすぐ終わるから」
「うん」
「目閉じたら、もいっかいだからな」
「はい…」
「急に落ち込むなよ」

まさしく子供をあやすような福井の態度が、手際がいいのに優しいので、面倒かけてるなあと思ってしまった。
失敗が嫌だと勘違いしたらしい福井が、ぐっと私を覗き込んだ。
目が、鋭い。
細い黒目が目立つそれはいわゆる三白眼というもので、それを躊躇いなく見つめられるのは割と好きだった。
しかし、じっと向かい合う体勢が完全に二人きりの世界みたいで、毎回どきっとするのも事実だ。
至って真剣な福井の、さらさらした金髪が綺麗だなぁと見つめていたら、片目にぽたりと冷たいものが落ちて思わず何度も目をしばたいた。

「はい終わり。お疲れさん」
「うう」
「まだ痛いか?」
「マシになったかも」
「だーから、こするなって」

反射的に目元へ伸ばしかけた手を、福井が諫めるみたくつかんだ。
その妙な位置に、二人で暫し静止。
相変わらず濡れた目をぱちぱちとやっていると、さっきみたく福井が私にぐっと近付いた。
え、待って。
言葉は消えて、というか柔らかく塞がれて、私は手から目薬の容器を取り落とした。
その音にはっとしたように、福井が離れた。
一瞬の出来事だった。

「なん…なに、今の」
「…や、つい、わりぃ」
「ついって、彼氏でもないのに?」
「わ、わかってる。いや、オレもわっかんねーよ!」

ぶわって顔を真っ赤にした福井は、混乱から奇妙なことを言ってから教室を出て行ってしまった。
なに、今の。
とりあえず真っ赤な福井が猛烈に可愛いと思ってしまった私は、どうすればいい?

だってお前可愛かったから!なんて言えねえ!
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