あーちくしょう。マジちくしょう。布団の中でもぞもぞと足をこすり合わせながら、悪態をつく。ピピピピ、と計測の終わりを報せる音が鳴って脇の下から体温計を取り出せば、39.2の不吉な文字が表示されていた。部屋の中はストーブがついてるからあったかいし、さっき触れた脇とかほっぺとか、体だってどこ触っても熱すぎるくらいだし、それなのにこんなに寒気がするのは考えるまでもなくこの高熱のせいだ。鼻の奥がムズムズして、豪快なくしゃみを一発。枕元のティッシュで鼻をかむと、大きく膨らんだ鼻ちょうちんが勢いよく弾けた。

「ナマエー、お友達がお見舞いに来てくれたわよー」

んー。かろうじて絞り出した声は、きっと階下まで届かない。喉がイガイガして、喋ろうとすると咳に邪魔されてしまう。新年早々熱でダウンなんて、幸先悪すぎるなあ。寒気と、鼻水と、喉の違和感。戦う相手が多すぎて辟易とした。今年は誰かの一言でみんなで初詣行くべーって話になって、及川先輩と初詣行けるって思ったら超絶嬉しくて、ものすごい楽しみにしてたのに。まさかの熱ですよ。金田一くんにはラインで行かれなくなったって伝えたけど。せっかく外は陽もでて好天に恵まれてるのに、テンションだだ下がりだ。
ところでお友達ってだれだ。わたし金田一くん以外に風邪の話したっけ。してないよね。訝しんでいた矢先、部屋のドアがノックもなしに開いた。

「やっほーナマエちゃん」
「お、及川先輩?」
「あけおめ〜具合はどう?」

え、友達ってもしかして先輩のこと。友達っていうか先輩じゃん。えええ。驚きすぎて、体温がぐわっと高くなった感じがした。体の中を走る血液の流れも、妙に慌ただしくなったような気がする。先輩が来るって知ってたら、もうちょっとまともなカッコしてたのに。今日なんて、猫だかなんだかわかんない変なイラストがプリントされたトレーナーに中学の芋ジャー。マジ適当すぎる。それに比べて先輩ときたら……今年最初に見る及川先輩は、やっぱりいつもと変わらず格好良い。

先輩ひとりですか。そう聞こうとしたらまた咳が止まらなくなって、段々咳のしすぎで涙が出てきた。

「大丈夫?みんな超心配してるよ。あ、ほらポカリ買ってきたから飲んでね」
「ありがとうございます。先輩、初詣行かなくてよかったんですか?なんか気を遣わせちゃって…ほんとにすいません」
「むさくるしい野郎だけで行ってなにが楽しいのさ。ナマエちゃんがいないとつまんないよ」

及川先輩は、わたしの心をくすぐるポイントを知っている。だから単純なわたしは先輩の一言にいつも嬉しくなって舞い上がるし、落ち込んでいても心は真綿のように軽くなる。部のみんなが心配してくれてるって言葉も、申し訳ない反面すごく嬉しい。だけど、先輩に一番心配してほしいって思っちゃうのは、やっぱり不謹慎かな。

「熱は?うわ熱っ」
「移しちゃったらごめんなさい〜……」
「移して移して。それでナマエちゃんが楽になるならどってことないよ」

先輩のおおきくて綺麗な手がすっと伸びたと思ったら、前髪をかき分け、おでこにぽん、と乗せられた。ひんやりして気持ちがいいはずなのに、触れられたところが途端に熱くなる。体中の熱という熱が、その一点に集まってきているみたい。ぶえーっくしょん!かわいげのないくしゃみと一緒にまたちょうちんが膨らんで、慌ててティッシュで鼻をかんだ。鼻ちょうちん、見られちゃったかな。

「ナマエちゃん、鼻の下赤くなってる」
「え?ああ、鼻かみすぎてめちゃくちゃヒリヒリします」

ずいっと、先輩の顔が近づいてくる。お互いの吐息がかかりそうなくらい、先輩の顔が近くにあって。身動きはできないし、心音も聞こえちゃいそうだし、ドキドキしっぱしで苦しい。なにか云ってくださいよ、先輩。呼吸もうまくできなくて、息がつまりそうになっていると、及川先輩の両腕が突然伸びてきて……あれ?

なぜか、抱きしめられていた。

「あーもうかわいすぎ。ごめんね、熱あってくるしいのに」

でもそんな顔する方が悪いんだよ、って先輩は意味のわかんないことを呟く。体はだるいし熱で頭がぼーっとしてるから、されるがまま。っていうのは言い訳で、本当は死ぬほど嬉しいから、抵抗するつもりもない。肺いっぱいに、先輩のいい匂い。頭がもっとぼーっとしてきた。

「ナマエちゃん、俺のこと好きでしょ?」
「えっあ、いや、あの」
「俺は好きだよ。すっげー好き」

これって、怪我の功名ってやつ?わたしも好きですと云ったら、先輩はすごく嬉しそうに笑ってくれて。その表情がたまらなく愛しくって、やっぱり今年は幸先のいいスタートを切れたなあと心の底から実感した。

20150102

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