図書委員をやる上で何が大変かって云えば、返却された図書を棚に戻すことだ。なにせわたしは143センチしかないものだから、脚立を使っても一番上はギリギリ届く高さで。もう少しチビにも易しい高さだったら良かったのに、と日々思う。

「ねえ、パンツ見えてるよ」
「えっ」
「へー水玉かあ。色気ないね、きみホントに高校生?」

脚立に乗り、文庫本数冊を片手にうんと背伸びをしていたら。いつの間にやって来たのか、脇に立つ男の子の声に喫驚するあまり、バランスを崩してしまいそうになった。危ない危ない、落ちるところだった……ってそんなことより!
この状態ではお尻を隠すこともできないから、一旦脚立を降りてスカートをせっせと伸ばす。もう見ちゃったんだし意味ないデショ、と尤もなことを云われ、わたしは閉口するしかなかった。っていうかでかいなこの人……身長何センチあるんだろ。

「な、何かご用ですか!?」
「別に」
「えええ」

じゃあ何しに来たんだよ、とは口が裂けても云えそうになかった。これだけ身長差があれば、目の前に立たれるだけで威圧感のすさまじいこと。見下ろされているのがとてつもなく怖い。用事がないなら早く出てってくれないかなあ。なんかやだ、この人。何年生だろ。同じ学年にいたっけ?でも、どっかで見たことあるような……。

「いたいた、ツッキー!どこ行ったのかと思ったよ」
「(ツッキー?)」
「ああ、悪い」

また一人、騒がしい足音と共に現れたそばかすが特徴的な男の子。彼の口から発せられたそのあだ名で、わたしはハッと思い出した。
そうだ、この人。同じ学年の月島なんとかさんだ。確かバレー部に所属してて、格好良いってクラスの子にも評判だったな。その分、口と性格はかなり悪いみたいだけど。わたし、これでもれっきとした高校生なんだから!色気だってこれから出てくるもん!そう、心の中で反論してみる。

「うわっ、ちっちゃ!小学生?」
「むかっ」
「ちょっとちょっと、そんなこと云ったらミョウジさんが可哀想デショ〜せめて中学生にしとかないと」
「(む、むかつく……!)」

腸が煮え繰り返るとはまさにこのことか。そこら辺の本を手当たり次第にぶん投げてやりたい衝動に駆られた。だめだめ、我慢我慢!仮にも図書委員なんだからわたしは!ぐぐぐ、と怒りを必死で抑えていると、カウンターの方からあのー、と声が掛かった。本、借りたいんですけど……。遠慮がちな女の子の声に、わたしは慌ててカウンターまで戻る。こんな意地悪な人たち相手にしてる場合じゃないや、仕事しなきゃ。

手早く貸し出しの手続きを済ませ、にこやかに利用者を送り出す。それにしても、申し訳ないことしちゃったな。さっきの人、もしかしてずっと待ってたのかな?怒り心頭で、全然気が付かなかった。ていうかあの二人、もういなくなったよね?昼休みもあとちょっとしかないし、早く仕事終わらせなきゃ。
静かにカウンターを立ち、再びさっきの本棚へ向かったわたしは目を丸くした。脚立の上に置いておいた本はすべて、月島さんの手によって並べられていたのだ。長身の彼には脚立なんて無用の長物、すとんすとん、と体ひとつで作業を進めていく。え、なんで月島さんが?唖然とするわたしに気付いた月島さんは、一瞥をくれるとすぐさま視線を本棚に戻し、抑揚のない声色で話し掛けてきた。

「すごいね、その間抜け面」
「な、なによ」
「順番、これで合ってると思うけど。もし間違ってたら直しといてね」
「あ……は、はい」

なんだ、なんなんだこの人。意地悪なんだか優しいんだか、ほんと訳分かんない。感情がころころ変わって忙しそうったらないわ。未だ呆然としているわたしを尻目に、本をすべて並べ終えた月島さんは相方(名前わからない)さんを引き連れ、図書室を出て行こうと向き直る。

「またね、ミョウジさん」「じゃーねー」

なにも言葉を返せない、そんなわたしの横を風のように一瞬で通り過ぎる二人。
「(あ……)」お礼、ちゃんと云わなきゃ。ありがとう、って。なのになんでだろ、うまく声にならない。そうこうしているうちに、距離はどんどん開いていく。「ちょ、ちょっと待ってよ!」カウンター横の引き戸に手を掛けたところで、わたしはようやく彼を呼び止めることができた。

「手伝ってくれて、ありがとう……ございました」
「なんで敬語。まあいいけど」

あれ。そういえば月島さん、なんでわたしの名前知ってるんだろう。さっき、ミョウジさんって云ってたよね?もっと早くに抱くべき疑問に小首を傾げるも、今はそんなことがどうでもよく思えた。不覚にも、最後に見せた月島さんの微笑みにときめいてしまったのだ。


「ツッキーってやっぱり好きな子は虐めたくなるタイプなんだね」
「うるさいよ山口」


物語の続きはふたりで//獣

20120909

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