台風13号だかが太平洋側にあらこんにちはしているので、昨日に引き続き今日も豪雨だった。あーあ。溜息混じりに声を漏らすわたし。大雨よりも何よりも嫌なのは雷だ。わたしは幼い頃からずっと、雷というものが嫌いだった。女の子って結構ゴキブリが嫌いっていう子が多いけど、わたしはそんな虫ケラよりも何よりも雷様の方がずっと苦手だ。Gなんかホイホイすればあっという間に退治できるけどさ、あれはどうにもならないじゃん。
「早く書いて帰ろ」
本日日直のわたしは、日誌作成という面倒臭いことこの上ない仕事を終えるべく、教室に独り居残っている。この時期の5時といったら全然明るい方なのに、悪天候の為かいつもより遥かに暗かった。ちらりと外を見遣れば、テニス部の部室から明かりが消えていく。そういや今日はミーティングだけだ、ってあいつ云ってたな。ああそれより日誌書かなきゃ。えーっと、今日の1限は現国で感想は……っと。書く程の感想も無いので、さらさらと嘘を並べていく。すると、開けっ放しにしておいたドアの向こうに笑い声が聞こえ、稍してからもう一人の日直が漸く戻って来た。

「わり、ミーティング長引いた」
「おつー。はいこれ、赤也の分」
「めんどいからお前書いてくんね?」
「やだよわたし帰るから」

赤也に日誌を渡し立ち上がる振りをするけれど、見捨てるのも可哀相なので書き終わるまで待つことにした。うちのクラスの担任は細かい事にまで厳しいから、日直二人が真面目に日誌を書かなければ、最悪もう一日日直をやらされてしまうのだ。

「つーかお前の感想適当だな。化学に興味を持ったとか嘘ばっか」
「赤也だって英語が好きになったとか大嘘書いてんじゃん」
「担任にばれなきゃいんだよ」
「ばれてるでしょ」

それからくだらない話をして日誌を提出しに行くと、空がまた随分とどんよりしていることに気がついた。横殴りに降る雨と強風が窓をガタガタ揺らして、この中を歩いて帰るのかと考えたら、ちょっと憂鬱な気分になる。アメリカの台風ってさー、隣を歩く赤也が不意にそんなことを口にした。

「名前ついてて面白いよな」
「確かに。この前のやつはジョニーだっけ?後ろに『デップ』って付けたくなった」
「げ、俺と同じ事考えてんのかよ」
「げとか云うなバカ也」

昇降口まで降りてきたわたしと赤也。だけど次の瞬間、紫色を帯びた光とほぼ同時に雷鳴が轟いて、わたしは思わず赤也の制服を掴んでしまった。それに気付いた赤也は、案の定驚いた面持ちでこっちを見てくる。お前、雷怖いの?そう訊ねてくる赤也にわたしは素直に頷いた。こいつのことだから、どうせ“意外”とかぬかして笑い飛ばすんだろうな。そう思っていたのに返ってきたのは、それこそ“意外”な言葉だった。

「結構可愛いとこあんだな、お前」

不覚にもその一言にドキッとしてしまったわたしがいる。まさか赤也がそんな事を口にするなんて、夢にも思っていなかったからだ。云われて嬉しくないわけじゃないけれど、自分が「可愛い」なんて云われるのはどこかむず痒くて、照れ臭かった。それから3日後、台風は無事過ぎて行った。

「台風一過ってさぁ、ずっと一家だと思ってたよわたし」
「馬鹿じゃねーのお前。俺より馬鹿だろ」
「ていうか自分が馬鹿だって自覚してるんだ」

台風の通過と同時に気付いたことがある。わたし、こいつのこと好きなのかもしれないわ。ああ何この気持ち。なんか変だよ、ドキドキしっぱなしだしさ。

「赤也、今日部活ないんでしょ?」
「あー、確か」
「だったら一緒に帰ろ」
「しょうがねーな。帰ってやるか」

数日前までとは違い、綺麗に晴れ上がった空を眺める。そうか、これが『恋』ってやつなのか。意外と乙女なところがあるんだなーと自分自身に驚きつつ、今日もまたくだらない話で笑い合うわたしと赤也だった。


恋とはどんなものかしら?


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