先に云っておきますが、私はえっちぃものが大の苦手です。雑誌然り、ビデオ然り、そういう話ですら軽重問わず受け付けない。ちなみにそれは顧問のオサムちゃんを含め、私がマネージャーを務めている男子テニス部の皆も知っています。とは云え中二、中三ともなれば嫌が応でも思春期は訪れるわけで、男子がえっちぃ事に興味を示すのも無理はありません。だからただ、私の近くでそういう雰囲気を醸し出さなければそれで良い。もう一度云っておきますが、私はえっちぃものが苦手です。そしてその事実は、顧問を筆頭に部活仲間も確かに理解している筈。……なのに、目の前のこの光景は一体何なんでしょう。

「オサムちゃん、何見とんの?」
「んー?えろ本」

とある日の放課後。爪楊枝を咥え、ベンチに腰掛けては珍しく雑誌を読んでいたオサムちゃん。最初その姿を見た時は、てっきりプロテニ(月刊プロテニス)を熟読しているとばかり思った。実際、私が確認した時はその手にプロテニを持っていたからね。がしかし、休憩でもないのにオサムちゃんの周りにわらわらと群がってくる白石たちを訝しく思い近寄ってみれば、それは紛うことなきえっちぃ本で。傍らに置かれたプロテニは、単にえっちぃ本を隠す為のカモフラージュに過ぎなかったらしい。

「ちょ、ちょっと何読んでるん!」
「んー?せやからえろほ」
「そういうことやなくて!ぶ、部活中にそないえっちぃ本読むのおかしいやろ!」
「全然おかしないでー。男はいつだって興奮する生き物なんやから」
「せやで、ナマエ」
「そんなん知らんわ!白石も同意すなアホっ」

小春ちゃんとユウジは相も変わらずキャッキャウフフしてるからまあ良しとして。白石、謙也、財前、千歳、それに純真無垢な金ちゃんまで興味本位で雑誌を覗いていらっしゃる……。ていうかたまにしか練習に顔出さない上顧問らしいことだってごく稀にしかしないのに、部活に来たかと思えばこうしてえっちぃ本を読むとかどうなの?

「ミョウジはナース服とか似合いそうやな」
「オサムちゃん、ナマエはナースより女医さんやろ。ほんで聴診器とか当てられたら……んんーっ、エクスタシー!」
「俺的にはナマエ先輩にメイド服着させて調教したいっすわ。先輩のあの強気な顔がめちゃくちゃになる瞬間とか絶対やばいと思いません?」
「うわ、財前ほんまSやな。俺はチアガールの格好で応援とかしてもろたらそれで満足っちゅー話や」
「謙也さん、そんなんやからいつまでたっても童貞卒業出来んのとちゃいます?」
「やかましいわ!」
「なあなあ千歳ー、この姉ちゃんなんでこないに股広げとるん?」
「あああかんっ!金ちゃんにはまだ早い!」
「ええー?ナマエ、わいだけ仲間外れなん…?」
「ナマエはむごかね。金ちゃんばのけ者にして」
「やって金ちゃんがあんたらみたいな変態になってもうたら…私、私……っ」
「堪忍な、ナマエ」
「白石……」
「愛故の変態さんなんや」
「もうあんたらキモすぎて生きるの辛い」
「俺と一緒に死んだらよかばい」
「千歳はムスカと死んだらええよ」

そもそも本人を目の前にしてやれナースだのやれ女医さんだの会話するなんて変態以外の何者でもない。しかも今部活中なんですが。もしも天使のように愛らしい金ちゃんまでそんな色に染まってしまったら、もうテニス部は終わりだと思う。大体こんな皆の姿、さすがに向こうで観てる女の子たちだってどん引きしてるは……あれ、おかしいな。目がハートのままだ。ああそっか、イケメンフィルターのせいでこんな気持ち悪い姿さえも格好良く映ってしまってるんだね。「もう嫌やあああ!」私は部室に逃げ込み、中にいた師範に救いを求めた。

「ミョウジはん、気にせんとき」
「師範……うう、私の味方は師は」
「ちなみにわしは巫女さん萌えや」
「師範んんんんん!」

やっぱり、テニス部はもう終わりだと思いました。


第3回BLove小説・漫画コンテスト結果発表!
テーマ「人外ファンタジー」
- ナノ -