俺こと白石蔵ノ介は、自分の立てたタイムスケジュールにおいても常に忠実である。つまり毎朝決まった時間に起床し、決まった時間に家を出、朝練、授業、放課後の部活とこなし帰宅した後もまた、決まった時間に床に就くっちゅーことや。そら道中で迷子がおったりとか、コンタクトを探して地面を這いつくばっとる人がおったりとか、思わぬハプニングやアクシデントに遭遇して予定が狂うことも無くは無い。せやけどそういう回避出来んトラブルがあらへん限り、俺の毎日の行動は前述の通りスケジュールに忠実に展開される。ただし、どうでもええ事で予定を狂わされるんは非常に不愉快である。たとえばこうして人がすやすや寝とる時に電話で起こされたりなんちゅーのは、正にそのいい例。以前真夜中に謙也からの着信で起こされ、なんや深刻な話なんか思ったら、財前に虐められてフルボッコにされる夢を見たやと。お前はどこのちびっこやねん。ちゅーか毎日のアレが虐めやなかったら何になるんや、と。あん時は呆れて電話をブチ切りたい衝動に駆られたけど、優しい俺は謙也に慰めの言葉を掛けて自然な流れで通話を終えた。要するに俺が何を云いたいのかというと、真夜中の着信程不愉快且つどうでもええ事はあらへんっちゅーことや。

「ん……誰やねん……」

草木も眠る丑三つ時。枕元で鳴り続ける着メロによって安眠を妨害された俺は、眠さ故に開き切らない目でディスプレイを確認する。ミョウジナマエ、表示されとったんは俺の彼女の名前。俺は飛び起き、すぐさま通話ボタンを押した。もしこれがクラスメートや部活仲間の誰かやったら、多分出とらんかったと思う。せやけど、愛しのナマエなら話は別。やってナマエとは毎日繋がってたいからな。ちなみに性的な意味では断じてない。

「ナマエ、どないしたん?」
『……蔵、ごめんね。こんな時間に電話して』
「別にええよ。何かあったんか?」
『うん、ちょっと怖い夢見ちゃって……』

んん、このパターンはあれか?数日前に小春が読んどった少女漫画のワンシーンが、俺の脳裏を過ぎる。ヒロインでありヒーローの彼女でもある菜摘ちゃんが、彼氏の健君に嫌われる夢を見たっちゅーて電話する場面。なるほどなるほど、ナマエも俺に嫌われる夢を見てしもたんやな。ああ、なんて可愛ええ奴なんやろか。俺がナマエを嫌いになるなんて絶対にあらへんのに。

「ナマエ、どないな夢見たん?話してみ?」
『…ん、あのね、蔵が』

“私のことを嫌いになる夢を見て、怖くなったの。”返ってくるだろう言葉を予測した俺は、今ここで電話越しにナマエを包み込めるくらい愛情の込もった返答を考えていた。「アホやなぁ、俺がナマエを嫌いになるわけないやろ?俺はナマエしか見えてへんねん。いつもナマエのことばっか考えとるんやで、俺。やから安心しぃ。ナマエ、ずっと愛しとる」……よし、これでいこか。

『…蔵、が、ね』
「おん。俺が?」
『……ゾンビになって、皆を殺す夢を見て怖くなったの』

………え、なに?ゾンビ?ゾンビってあの、生きた腐乱死体のこと?

『なんか、やけにリアルで……それで、』

リアルて。俺がゾンビになってもうた夢がリアルて。やけどもナマエは心底怯えとったから、一先ず俺は慰めにかかる。「嫌いになるわけないやろ」という用意しとったその台詞は、「ゾンビになるわけないやろ」に見事変換されてしもた。おん、この流れで愛しとるなんて云うたら完璧おかしいやんな、俺。ちゅーか何、このシュールな空気。

「ナマエ、少しは落ち着いたか?」
『……ん、もう大丈夫。はは、泣きそうになったのが馬鹿みたい』

寧ろ俺が泣きそうやねんけどな。格好良くキメてナマエとの愛を深めるつもりが、なんやろこの無駄な虚無感。

『蔵、』
「ん?」
『ありがと……大好き』

ま、ナマエから「好き」云うてもらえたしええか。

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ちなみに私は昔好きな人が自販機になる夢を見ました。

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