◎ただのキモ石


その日、わたしはクリーム餡蜜を傍らに自室のベッドに寝転がりテレビを見ていた。本日の金曜ロードショーは“ルパン三世カリオストロの城”宿題なんて完全にそっちのけである。ああ、トイレに行きたい。次のCMの時にマッハで用を足してこよう。そう心に決めた矢先、タイミング良く切り替わった画面にわたしはベッドを飛び起ると、忙しなくトイレへと駆け込んだ。ふう、すっきりすっきり。そういえば、おしっこ我慢すると確か膀胱炎になるんだよね。気をつけよう。なんて自分自身に注意喚起しながら悠長に部屋へ戻ったわたしは、思い掛けない光景を目の当たりにした。

「おかえりナマエ、トイレの我慢はあかんで」
「ただいま……ってちょっと待てコラ」

何故お前がいる。そこには今し方までわたしが寝転んでいたベッドをちゃっかり占拠し、更には味わって食べようと置いておいた餡蜜を何食わぬ顔で口に運んでいる白石の姿が。ふわり、僅かに開いた窓から入り込む風が橙色のカーテンを揺らす。こいつとは所謂幼馴染み兼恋人で家もお隣さんっていうよくあるパターン、尚且つ窓から侵入してくるのも日常茶飯事だけど。本人不在の時に上がり込んで人様の貴重なスイーツにまで手を出すなんてまあふてぶてしいったらありゃしない。大体その餡蜜、美味しいけど値段が高いから中々手が届かない代物なのに!

「何ぼけーっと突っ立っとるん?早うここ座り」
「わたしのクリーム餡蜜が…」
「あーんしてほしいん?はは、ナマエは可愛えやっちゃなぁ」

わたしは勘違いも甚だしい白石をベッドから強引に追い出し、半ば不貞腐れた表情で愛しの五右衛門様を拝む。それにしても、なんて素敵なお人なんだろう。こんな人がリアルにいたらいい……いや、いる。立海の柳くん、彼どことなく五右衛門様に似た雰囲気を漂わせてるよね。柳くんに五右衛門様と同じ格好させたらきっとまんまだと思う!

「やば、超絶かっこいいし」
「俺のこと?おおきに、ナマエもめっちゃ可愛えで」
「胸を揉みながら云わないでもらえます?」
「いや、そこに胸があるから」
「何そのそこに山があるからみたいな云い方」

映画はいよいよクライマックス。銭形警部がお姫様のクラリスに対し、あの非常に有名な台詞を言うシーンだ。

『いや、奴はとんでもない物を盗んでいきました。あなたの心です』

格好良い。格好良すぎるよ銭形のとっつぁん。五右衛門様が無理ならとっつぁんと結婚してもいい。寧ろ結婚してください。それから放映が終わり、再び用を足しに部屋を出て戻って来る頃には奴の姿は無かった。あの野郎、餡蜜の怨み覚えておけよ!と、窓の向こうを睨みつけた時だった。白石からの着信を告げるメロディーに、わたしは欠伸をしながら通話ボタンを押す。

「なに?」
『白石はとんでもない物を盗んでいきました』
「は?」

何云い出すんだこいつ。ははーん、さてはとっつぁんの真似してわたしがきゅんとするとでも思ってるのか。生憎今は餡蜜の怨みで頭がいっぱいだから、その可能性は真っ向から否定させてもらうとしよう。

『あなたの下着です』
「死ね」

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テーマ「人外ファンタジー」
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