※まるで駄目な財前。かっこよさのかけらもありませんのでご注意ください。


「俺昨日佐々木とヤってん。童貞卒業やで」

ヘッドフォンを外したその瞬間聞こえてきたんはそないな品性下劣な言葉やった。窓際に固まってしもい話をしとるんは高橋と阿部と遠藤、いや江藤やったか。とあとは名前忘れてもたけど野球部のやつ。童貞卒業?へえ、おめでとさん。高橋は誇らしげやった。まあ今まで童貞やったっちゅう事実は別に誰も聞いてへんけどな。

そういやとこの数日を振り返ってみれば、なんや男も女もそっち系の話ばっかしとったような気がする。お前らほかに話題ないんか。音楽の話とかせぇへんの?ちゅうてもあれやろ、エーケービーやら嵐やらそればっかやもんなお前らの場合。ちなみに俺の中では最近さしこ熱が急上昇しとるけどなんか文句あるか。チキンタツターズのさしこむっちゃ可愛えとか云うてへんからな。あと嵐やったら松潤は男から見ても男前やんとか思ってへんで別に。

「財前はええよな」

突然野球部のなんたらに話を振られた俺は何がやねんと目で訴える。「財前モテるやんか。経験豊富やろ?」そこにいてるやつら全員が俺を羨望の眼差しで見てきよる。この雰囲気でいいえ童貞ですけど何かとはとてもじゃないが云えんかった。

練習も終わり、部室には俺とマネージャー兼彼女のナマエ先輩の二人きり。先輩は黙々と部誌を書いとって、それを正面から真面目くさった顔で眺めとる俺。「なあに?」ふわりっちゅう表現がぴったりくるような柔らかい笑みを浮かべよるナマエ先輩に、俺は改めて自分が先輩の彼氏であることを全世界に向けて自慢したなった。どうや!羨ましいやろおおおお!的な。

先輩はとにかく可愛え。ギャルが多いこの校内でも一際清楚やし、頭もええし、ドジっ子属性っぽかったりもする。し、俺が惚れてもうただけあってとにかくモテるねん。そらもう、あんたどんだけ告白されれば気が済むんですかっちゅうくらいに。先輩がテニス部のマネージャーとして入部しはったときも、女子の先輩方は別段文句云うてきたりはせえへんかった。相手がナマエ先輩やから、云えんかったっちゅう方が正しいな。そんでもって、白石部長もナマエ先輩が好きやったらしい。せやけど、先輩が選んでくれたんはこの俺。いつも自信に満ち溢れとる、そんな強気なところに惹かれたのだと先輩はいつかはにかんで教えてくれはった。どないしよ、ここに天使がおんねんけど。その天使なナマエ先輩は自信家な彼氏が童貞やと知ったらどないな反応をするんやろか。まあ先輩も処女のはずやし、初めてを好きな人に捧げ捧げられるっちゅうのも悪ないわな。俺は先輩処女説を信じて疑わんかった。

そんなこんなでナマエ先輩と付き合い始めて一ヶ月と十日の今日もまた、手を繋いで家路を辿る。俗に云う恋人繋ぎや。横顔を盗み見れば、先輩は向こうから歩いて来よるミニチュアダックスに可愛えなぁと目を細め、口元を綻ばせとった。いや先輩の方が可愛えしあんたどんだけ自分を分かってへんねん。俺の視線は更に先輩の唇っちゅうその一点に集中する。ナマエ先輩のピンク色の唇は常にぷっくりふにふにしとって、それが俺には妙にやらしく感じられた。まさか先輩、俺のこと誘っとるん……?淡い期待を抱いてみても、先輩からは性欲なんちゅうもんは一切感じられへん。勘違いでキス以上のことをして万が一先輩に嫌われてまうような事態に陥ったら俺はもう死ぬしかあらへんしと、現状からものの一歩すら踏み出せずにいた。そうして今日も帰路に着く。鞄をソファに放り投げ、テーブルに並べられた唐揚げをひょいとつまみ食い。するとほっともっとの、ちゅうよりチキンタツターズのCMが流れてきたことにより俺の視線はテレビに釘付けになる。そらな、勿論さしこもええで。ええけどもしこん中にナマエ先輩がいたら……あかん。萌え。食いたいわ。

「中二で童貞とかほんま恥やで」次の日もやつらのメインテーマはそれやった。メインもクソもあらへんけどな。高橋と阿部と遠藤、いや江藤やったか。とあとは名前忘れてもたけど野球部のやつ、に今日は確かサッカー部の桐島だか上島だか奄美大島だかが加わっとった。ちゅうか高橋やってつい一昨日?童貞卒業したばっかやねんかなに調子こいてんねんシバくぞコラ。それか学校掲示板に匿名で誹謗中傷したってええねんぞ。ネットやと負け知らずやからな俺。おい誰や今ネットヤンキー云うたやつ。だいたい童貞の何が悪いねん知っとるか、三十路まで童貞やったら妖精になれるんやで。ジャムおじさんとバタ子さんもフェアリー、妖精なんやつまりはあのお二方の仲間入り出来るっちゅうことや。ちなみにアンパンマンのキャラクターならてっかのマキちゃんが好きやねんけどな。は、お前ら知らんの?マキちゃん結構メジャーやで。あとはゆきんこゆきちゃんとかな。萌えすぎて禿げるっちゅーねん。

「なあ財前」またしても急に話題を振られ今度はなんやねんと睨み半分に目で問い掛ける。「財前の好きな体位ってなんなん?」は?なんやて?鯛?そう聞き返せばどないなボケやねんと笑われてもうた。ああ体位な、体位。俺はこう答えた。

「バック」

とりあえず生で的な感じにとりあえずバックと答えたらやつらはさすが財前やなと心底納得しよったから、何がさすがなんやとつっこみたなった。その日は帰宅してから部長がいつぞや押し付けていきよった変態度のすこぶる高いエロ本のバックのページをめくってみた。絶妙なタイミングで母さんがノックもせんと入って来そうになったから慌ててベッドの下に放り投げたが、とりあえずバックやとナマエ先輩の顔が見えへんからそんなら正常位とか騎乗位の方がええわ。とだけ云うておく。

「明日で二ヶ月やね」
「っすね」
「最近な、デートがほんま楽しみすぎてよう眠れんかってん。浮かれすぎてアホやね、わたし」
「寝不足で倒れたりせんといてくださいね。(なにこの可愛え生き物)」

っちゅう訳で明日俺とナマエ先輩は付き合うて二ヶ月目を迎える。運のええことに記念日は祝日やから、どこかに行こうなんて話をしとったここ数日。俺のプランとしてはちょい遠出して先輩が前に行きたい云うてはった動物園へゴー、その日は新しくレッサーパンダのトムくんがお目見えするらしいから丁度ええしな、ほんで昼飯は園内のレストランで食うて、最後に俺の家へ来てもらって大人の階段を一緒に上るっちゅうナイスゴッドな流れ。動物園に関してはナマエ先輩かなり喜んでくれはって、計画した俺自身も密かに楽しみで仕方がない。ちなみに最後に家へ来るっちゅうのは今んとこ秘密やねん、やって初めから云うたら下心ありありって思われてまうやんか。

「ほんま、光大好きやわぁ」

下心ありありで何が悪い。幸せやら大好きやら、ナマエ先輩が絶え間なく繰り出しよる怒濤の攻撃ににやついてまうのをなんとか堪え、やって来た翌日。
ナマエ先輩は袖がパフスリーブになっとる白地にレースのワンピースを着てきはった。どないしよ、ここにほんまもんの天使がおんねんけど。予定通り動物園に行き、トムくんに手を振る先輩においこらトムそこどかんかいとか思うてへんからな。カピバラをじっと飽きもせず眺めてみたり、ライオンに吠えられてちょい怯えてみたり、どっちかっちゅうたら動物を眺めとる先輩を見て、俺は記念日デートを存分に満喫しとった。

「パスタも光とこうして食べたら美味しさ百倍やね」
「どんだけっすか」
「やって、ほんまに美味しいねんもん」

ナマエ先輩はどんだけ俺を萌え殺せば気が済むんやろか。とても飯を食うどころとちゃうくて、俺のアニマルランチAセットは一向に減る様子を見せへん。そない調子の俺をどこか具合でも悪いん?と眉を下げて心配してきよる先輩になんともないっすわと平静を装うて返せば、ナマエ先輩は何か云いたいことでもあるのか心なしか頬を染めて「今日、光のお家に行ってみたいんやけど……あかん?」ってmjd。予想外の発言に興奮動揺しながらも俺は別にええっすけどと、ああなに家来たいんだふーんオーラを放ちながら一秒たりとも迷うことなく了承した。思うことは一緒なんやろか。先輩も、俺と大人の階段を上りたいって。
ほんで夕暮れ時一歩手前になったところで四天宝寺に戻って来た俺とナマエ先輩は、約束及び計画通り俺の家の、俺の部屋におった。室内にはお気に入りの洋楽を響かせ、中々ええムードではある。もし大声ダイヤモンドやヘビーローテーション、会いたかったなんかを流してもうたら雰囲気をぶち壊してまうことは一目瞭然。クッションを抱き抱え、にこにこしながら小学校のアルバムを見とる先輩に俺はどう本日のメインイベントへ持ち込もうか思考を巡らせとった。

はずやった。

「ねえ、光」
「なんすか?」
「光って、童貞なんやろ?」
「……はい?」

我が耳を疑わずにはいられんかった。ついでに云うと、我が目も。視線をアルバムからベッドに腰掛けとる俺に移したナマエ先輩は笑っとって、せやけどその表情を恐らく俺は知らん。いつも見せはる天使のような笑顔とちゃうくて、妖艶でえろっぽいそれ。それから先輩の手が撫でるようにゆっくりと俺の下半身に触れ、そこで俺はある疑問を抱いた。先輩って、よう似た姉さんか妹いてはったっけ?なんともアホである。

「ふふ、ずっといつ光の童貞食べてしまおうか考えててん。なあ……ええよね?」

そこにおったのは、天使の皮を脱ぎ捨てたとんでもない小悪魔やった。

天使が消えた日

20110407

どうした財前

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