「ねーねー、昨日のダマされた大賞みた?」
「おー。やばいヨーダで腹筋死んだわ」

今年最後の練習が終わって、なんというかこの一年間受けに受けた疲労が頭のてっぺんからどっと抜けていくような感じがした。明日は大晦日だから、さすがに掃除しなきゃなぁ。と思いつつも、結局大してやらずに終わる予感がしたりしなかったり。一年の締めくくりに「よいお年を〜」とお決まりのフレーズを口々に言い合って、みんなそれぞれの帰路を行く。帰り道が途中まで一緒の木葉とは、こうして並んで帰るのが当たり前みたいになっていた。

あと二日で一年が終わる。毎年毎年、実感なんて沸きもしない。北風の冷たさも、通学路の雰囲気も、いつだって変わらないから。でも来年、というか数ヶ月後にはいよいよ梟谷を卒業するんだって思ったら、なんとなく、色んな終わりを実感し始めた。

「やっぱ広瀬すずかわいいよねぇ」
「それな。あんなかわいい子が近くにいたら好きにならないとかゼッテー無理だわ」
「わたしもあんな顔に生まれたかった」

そっか。やっぱこいつも、ああいう子が好きなんだ。そりゃあね、あんな犯罪級にかわいい子、好きにならない方がおかしいと思うけど。思うけど!現実を受け入れて、妥協するのもたまにはいいんじゃない?なんて顔面偏差値至ってフツーのわたしは思うわけでして。木葉の隣を肩を落として歩きながら、せめてもう少し目が大きかったらなぁ、それか唇がぷっくりしてたらなぁ、そんなしょうもないことを考えては、ますます落胆してしまうという悪循環に陥っていた。部活の終わり、高校生活の終わり、恋愛の終わり。どれもこれも、終わってほしくないものばっかりだ。

「別に、そのままでいいじゃん」
「え、そう?てかどうしたの?」
「いや、だから、……そのままでもかわいいだろってこと!です!」

なんで最後敬語になったのかとか、なんで半ギレしてんのかとか、まあ多々疑問点はあるけども。それよりも木葉の口から、わたしに向かってカワイイという単語が発信される日が来ようとは。え、本気で言ってるの?

「トゥットゥルーとか言ってプラカード出したりしないよね?」
「しねーわ」

少しムスッとしたような、あとすごく照れくさそうな、そんな木葉の横顔に、なんだかよりいっそう落とされてしまった気がした。よく見たら耳はほんのり赤いし、そんな木葉が可愛いとかもうどうしようもないね。やばい、ほんと好きだわ。

「ねー木葉」
「はい、なんでしょーか」
「わたし、木葉のこと好きなんだけどさぁ」

今度は木葉が驚く番だった。立ち止まってはわたしをまじまじと見つめ、トゥットゥルーとか言わねーよな?ってそれ、さっきのわたしとおんなじじゃん!

「言わないし」
「あ、そ。ならいいけど」
「……明日、ちょっとでもいいから会えない?」

明日は大晦日だ。みんなきっと課題やら掃除やらで忙しい。そんなことわかりきった上で、わたしは明日も、木葉に会いたいのだ。初詣もこいつは木兎たちと行くようだし、たぶん元旦はそっちで盛り上がっちゃって会えない気がしたから。五分でも、十分でも、三分でもいいよ。贅沢は言わない。

「連絡して、そっちまで行くから」
「うん。ありがと」
「あと……俺も好きだから、ちゃんと」
「うん。ふふふ」

気持ち悪い笑い方すんなって怒られちゃった。でも幸せなんだもん。しょーがないよね。もうそろそろで別れ道だけど、木葉がぐいっと少しだけ乱暴にわたしの手を引っ張って、そのままこっぱずかしそうに繋いでくれて。さっきよりもゆっくりのんびり、わたしたちは歩いた。よいお年を、なんて言われなくたって、きっとよいお年になるもんね。


来年も、どーぞよろしく。
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