もう何度目になるだろう、こうして光の部屋へ足を運ぶのは。男の子の部屋の割にはいつも綺麗に整理整頓されていて、まあ無駄な物が置かれていないってことでもあるんだけど、自分の部屋のように落ち着く。彼氏である光の部屋だからなのか、それともこのルームコーディネートが私好みだからなのか、或いはその両方か。不鮮明なのはきっと熟考したことがないから。
丸型のクッションにお尻を預け、光が運んで来てくれた炭酸飲料の注がれたグラスを見つめる。グラス自体が青く着色されているものだから、注がれた炭酸がまるで小さな海のようで涸渇させてしまうのが少し勿体ない気もした。ぶくぶくと産まれては弾ける泡に、ゆらりゆらりと水面は優しく揺蕩う。光は私の隣、クッションを敷かずカーペットに直接腰を下ろした。曲げた片膝にゆるく手を乗せる、そんなほんのちょっとした仕草でもすごく格好良いと本心で思う。

どうしてこの人は私を選んでくれたんだろう。どうしてこの人は、私を好きになってくれたんだろう。欲のままに突っ走り愛する二人の仲を崩壊させようとした、こんな最低な私を。不意に訪れた沈黙の中で思考する。一年前に比べたら、確実に私の気持ちは形を変えた。丸から四角へ、四角から三角へ、そして三角から菱形へ。光のことはあの頃以上に好きだし、オサムちゃんに対しても好意自体が完全に消えた訳ではないけれど、もうどうこうなりたいとは思わない。たまに逢いに行ったりしても、別にただそれだけ。想いが再燃することもない。疚しい気持ちも、あわよくばなんて下心も存在しない。

「名前先輩、好きや」
「……ん、私も」
「ほんまに?」
「うん。ほんとに」

怖かった。光の愛を目で、声で、躯で実感するのが。自惚れなんかじゃなく、彼は心から私を愛してくれている。触れ合う肌から、囁く言葉から伝わる光の想いは渺然としていてさながら大海のよう。それなのに、私はその気持ちに正面から向き合うことがまだできないでいる。怖い、そう思うのと同時に彼への罪悪感に苛まれていた。しかしながらそれは酷く漠然としたもので、何に対しての罪悪感なのか、正体は掴めないまま。向き合えなくてごめん?甘えてばかりでごめん?こんな私に付き合わせてごめん?好きと云われれば好きと返す、あの頃とまるで同じ言葉のキャッチボールも今は嘘偽りない「好き」を伝えているつもりだ。けれど私はその先の、核心へ触れられることから常に逃げてきた。もしもオサムちゃんを超えられたのかと問われてしまえば、間違いなく私は光の求めている答えを与えられはしないから。だからいつもいつも、当たり障りのない会話でやり過ごしてきた。深い部分へと侵入されないよう、高く分厚いバリケードを張り巡らせて。

力強く抱き寄せられ、光の胸に顔を埋める。当たり前だけど、光の匂いがした。とくんとくん、鼓動の優しい音もする。こんなにも愛されて幸せの筈なのに。光はこんなにもまっすぐに、純粋に感情をぶつけてきてくれるのに。今の私は、ありのままに笑えない。またひとつ、心に「ごめんね」が零れた。
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