シトラスの香りが漂う浴室。俺は水鉄砲で遊ぶなまえを背面から抱え、湯舟に浸かっとった。暑い日に熱い湯に浸かるのんもまた夏の醍醐味っちゅうやつやな。水鉄砲を駆使して湯をかけてきよるなまえに仕返しのつもりでこちょこちょをしとると、ふと何かを思い出したんかなまえは攻撃の姿勢はそのままに「ひかる」と名前を呼んだった。

「“おたんじょび”って、なあに?」

きみ

「ひかる、さっきおはなししてたでしょ?おたんじょびってたべれるの?」

風呂に入る前のおかんとの会話を指しとることは考えんくてもわかった。そういやあんたももうすぐ誕生日やったわねえって、AKBの話から突然そないな話題に変わってん。せやった、もうすぐ誕生日やったわ。俺も自分のことやっちゅうのに時々忘れてまうねん。なまえには『誕生日』の概念云うんかな、感覚そのものがあらへんのやろか。そないな質問をしてきよるっちゅうことは。

「誕生日はな、その日に生まれましたーってことなんやで。せやから俺は、もうじき自分が生まれた日を迎えるねん」
「うまれた?ひかるはどこからうまれたの?」
「おかんの腹ん中からやで」

なまえも、そう云いかけて俺は口を閉ざす。改めて考えると、ほんまに謎だらけやな。そらなまえは宇宙人なんやし、謎があらへん方が逆に不自然やけど。夢の中で宇宙空間を彷徨っとった時に見付けたなまえは、ちいさなちいさな星屑やった。多分それが、本来の姿なのかもしれへん。なまえはいつ、どうやって、息吹を吹き込まれたんやろか。ほんで地球に墜ちてきたんは、単なる偶然やったんか。宇宙の神秘とか今までは全然興味なかってんけど、なまえがやって来た今は少し、おもろいと思っとる。

なあ、なまえ。指で湯を弾きながら、俺はそれとなく問うてみた。なまえは、自分がいつ生まれたか知っとる?それに対しての返事は“わかんない”の五文字。だってね、なまえね、きづいたらなまえだったから!たどたどしい喋り方で、それでも懸命に説明しようとしてくれるなまえ。いっちょ前に眉間に皺寄せとるその姿は萌える可愛え。おかんのね、なまえは不思議そうに云う。おかんのね、はらんなかはどんなの?あったかいの?ねむくなるの?

「せやなぁ……あったかくて、気持ち良くて、確かに眠くなるな」
「じゃあ、おそらといっしょだね!」
「お空と?」

うん、と嬉しそうになまえは笑う。夢の中で歩いた宇宙は静かで、神秘的で、幻想的で、せやけど温かくなったりとか、眠くなるような心地の好さは感じられへんかった。そこで生まれ、生命活動を行っとるなまえにしかきっと分からんのかもしれんな。

「おそらはとってもあったかくてね、たまにいじわるされたりもするけど、おほしさまもやさしいの。だからなまえ、おそらがだいすち!」

宇宙について語るなまえの双眸は輝いとって、そら自分のホームやねんからしゃーないんやけど、やっぱり一番は宇宙がええんかな。なんて宇宙相手にジェラる俺ってただのアホ。
「#幼馴染」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -