先程の隕石落下の影響か、まるで地震直後さながらに物が散乱しとる室内。なまえを連れて戻った俺を二度見し、「その子どこの子?」と当たり前の反応を示すおかんに「隕石と一緒に落ちてきたった」と事実を告げれば、おかんが手に持っていた皿はするりと滑り落ち、けたたましい音と共に割れてもうた。

きみ

そらまあ、当然のリアクションやと思う。嘘偽りない云うても、俺かておかんの立場やったらこいつ頭イカレてもうたんかと逆に心配するに決まっとるし。第一、今でさえ夢ちゃうかと疑心を抱いとるくらいやから。その現場を見てへん人間がはいそうですかなんて云うて素直に信じられるわけがあらへんやろ。

「光、病院行く?」
「残念やけど正常や」

熱でもあるんかと額に手を当てようとするおかんの動きをサッと躱すと、おかんは尚も手を繋がれたままのなまえに視線を向けたった。その眼差しに恐怖を感じたんか、びくりと肩を震わせ俺の手を強く握ってくるなまえ。すっとしゃがみ込んで目線を合わせれば、おかんは優しげな声色で問いかけた。

「お名前は?」
「…………なまえ」
「なまえちゃんって云うん。可愛え名前やね。じゃあ、なまえちゃんはどこから来たん?」

すると、なまえの小さな唇が吐き出したんは「おそら」の三文字。空っちゅうんはつまり宇宙って意味やと俺は解釈した。しかしまあ案の定その返答におかんが納得するはずものうて、なまえを宥めすかしながらゆっくりと話し出す。

「なまえちゃんのパパとママね、とっても心配しとると思うんよ。なまえはどこに行ってしもたんや、って」
「……ほんとだもん」
「うん、分かるよなまえちゃん。せやけど、まずパパとママのところに戻ら」
「ほんとだもん!」

なまえが強く叫んだその瞬間、家中の物っちゅう物がぶわー浮かんで四方八方を飛び回り始めた。ポルターガイストなんてレベルとちゃう。しかも飛び回るだけに留まらんくて、マグカップは粉々になるわ時計は逆回りに針が動くわ冷蔵庫の野菜たちは踊り出すわでおかんの目が点。俺も唖然。ちゅうか長ネギに至っては新体操のリボンみたいにくるくるにょろにょろ舞ってんねんけどほんま大丈夫なんか。

「もうおしまいやで、なまえ」
悲惨な光景に意識を持っていかれとった俺がそう云うてなまえを抱き上げ頭を優しく撫でれば、超常現象はぴたりと止んだった。それから幼子の落涙を捉えた俺に、なまえは三度目のほんとだもん、を零す。

「……なまえ、うそついてないもん」
「誰もなまえが嘘ついてるなん思ってへんよ。なまえはお空から来たんやもんな」
「うん」

俺の首にぎゅうと手を回ししがみついてきよるなまえ。彼女越しにおかんを見れば、眉をハの字にした母親様はさて困ったと云わんばかりに溜息を漏らした。「……分かったわ。ほな預かってもええけど、行方不明の女の子がいてるとか何かしら情報が入ってくるまでの間やからな」観念したのか腰に手を当ておかんがそう呟くと、多少なり意味を理解したんかなまえはパッと花が咲いたような笑顔を浮かべ、浮かべついでにダイヤモンドか星屑か、きらきら輝く小さなカケラを降らせたった。

「なまえ」
「なあに?」
「なまえはこれから、ここで俺と一緒に暮らすんやで」
「いっしょに、くらす?」
「せや。一緒にご飯を食うて、夜は一緒に眠るん」

朝練には完璧間に合いそうもあらへんな。連絡はしたったからとがめられたりはせえへんやろけど、謙也さんがどないしたんどないしたんしつっこそうやわ。ほらあの人、空気読めへんから。とりあえず、おもろそうやし「家族が増えました」云うて驚かしてみよか。
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