蹲っとったそいつはゆっくり起き上がると、ただまっすぐに俺を見つめたった。

きみ

隕石と一緒に子供が降ってきよるとかどないやねん。これはあれ、地球を侵略しにきた宇宙人っちゅうやつか?こないちっこいくせしてスカウターぶっ壊れてまうくらい戦闘力半端ないとか。……いやいやいや、まさかいくらなんでもそれはないやろ。ああでもないこうでもないと正体を探る一方、姿勢はそのままに金糸雀色の無垢な双眸が俺を凝視する。風もあらへんのに、その濃藍の長い髪はふわりなびいとって。まとう空気からして、やっぱり俺らヒトとは違う「何か」を感じさせる。甥っ子と同じくらいの歳に見えるねんけど、実際はなんぼなんやろか。

数分もの間互いが互いを凝視しとると、よろよろと立ち上がったそいつは俺の方へと近付いて来たった。よたよたと、これまたおぼつかない足取りで。警戒心からじり、と一歩後る俺。やって見た目が子供でも宇宙人やったら何されるか分からんし……。見た目は子供、頭脳は大人っちゅうええ例えがあるくらいやしな。そうして一挙一動を窺えば、そいつは火を噴くでも目からビームを出すでも五感を奪うでもなく。

俺がされたことと云えば、ぎゅうっと抱き着かれたこと、それだけ。


「(……なんやろ、これ)」

とくんとくん、微かに伝わる心音。懐かしい感じがするのはどないしてやろか。そいつからは産まれたての赤ん坊のあのミルクっぽい匂いがして、ほんで抱き着かれた瞬間、俺はまるでおかんの腹ん中にいてるみたいな、そないな錯覚に陥った。胎児の頃の記憶なんて当然覚えとるはずもあらへん、せやけど知ってんねん。この妙にあったかくて泣きたくなってまうような柔らかい感覚を、俺は確かに。

そういや俺、ようおかんの腹蹴飛ばしてたっておとんから聞かされたことあったな。せやけど出産自体はかなりの難産やったとかで、ほんまにしんどかったらしい。それやから俺が無事腹ん中から出てきて産声を上げたときは、おとんもおかんも感極まって泣いたって。俺もまだまだ反抗期やしその話を聞かされた時はほんまに照れ臭くて云えんかってんけど、ちゃんと感謝はしてんねんで。

産んでくれてありがとう、ってな。


「名前、なんて云うん?」

そいつは瞳を真ん丸にして俺を見上げ、女子特有のちょい高めのトーンで呟く。「なまえ、」舌足らずな喋り方をしよるなまえの声は限りなく透明で、ただ名前を云うただけなのに俺の心の尖った部分をがりがりと丸く削るような、上手くは云えへんけどなんちゅうか不思議な力を持っとった。ほんでこのまま放っておくこともできひんくて、

「光。俺の名前な」
「…ひか、る。きらきら、おほしさま?」
「せや。お星様が光る、の光や」

これって誘拐になるんかなとか、マジで地球を侵略しに来よった宇宙人やったらどないしよとか、色々思うとこはあんねんけど。それでも俺にはなまえを見捨てられへんかったから、とりあえず家に連れて行こうと密かに決め、なまえの手を引きUターンしたった。…あ、部長に連絡しとかな。

歩きながらふと思ってん。これが「母性本能」っちゅうもんなんかな、って。
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