朝の登校前と、夜眠る前。毎日欠かさず、俺は星子の墓前で手を合わせてその日の出来事なんかを報告するんやけど。テニス部の話題が大半を占めとったのに、いつからやろか。みょうじさんの話ばかりをするようになったんは。いつからやろか、みょうじさんの笑顔が頭から離れんようになったのは。星子に似とる、そう云うてもうてぶっ叩かれたあの日。必死で謝って、許してくれて、初めて笑顔を向けてくれた次の日。一日、一日、日を重ねる毎に俺はみょうじさんを知っていった。みょうじさんもまた、俺を知っていってくれた。仲良うなって、練習中に何度か応援に来てくれるようにもなった。その度に、“かっこええとこ見せな”思て張り切るんやけど、空回りばっかしてもうて。そんな俺を見て、みょうじさんはまた笑てくれる。みょうじさんの笑た顔を見て、こんなんでもええかって思う自分がおったりして。

なあ、星子。初めてみょうじさんと会うたときは俺、星子の生まれ変わりや思たけど。せやけど星子は星子、みょうじさんはみょうじさん、っちゅー話やんな?ああ、ほんでな、俺いま恋してんねん。みょうじなまえさんその人に、恋、しとるんや。

「おめでとうございます、謙也さん」
「いや、まだ告白すらしてへんねんけど……」
「漸く『人間』になれたんすね。いやほんま、大いなる一歩ですわ」
「財前んんんん!」

間違うた。俺、どないして財前にぶっちゃけてもうたんやろ。完全なる人選ミスっちゅー話や。せめてユウジ辺りにでも云うとけば……いや、ユウジもあかんな。小春バカやし、あいつ。ま、ええか。人間にも昇格できたわけやし、今日はなんかええことありそうな気がする。朝練が終わって、いつものように白石と教室へ向かう。あ、みょうじさんもう来とる。今日は早いんやな。せやけど速さなら俺も負けへんで!何てったって、俺は浪速のスピードスタ「おはよ。忍足くん、蔵ノ介くん!」え、蔵ノ介くん?何、あいついつの間に名前で呼ばれとるん?俺は戸惑い気味に挨拶を返すと、少し離れた自分の席から二人の様子を眺めた。よう考えたら席が隣同士なんやから、俺なんかよりも話す機会なんてそらあるもんなあ。それにあいつ、頭はええしハンサムやし、運動神経も抜群やし。(俺も負けへんけど)

みょうじさん、白石のこと好きなんかな。はあ。もやもやしよる。はあ。


放課後、部室に行くと白石はまだ来てへんかった。あれ、あいつ俺より先に向かったはずやんな。どこで道草食っとるんやろと少しばかり不思議に思いながらも、大して気にも留めずに俺は着替えを始めた。ちょっとしてから金ちゃんが来て、ユウジが来て、小石川が来て。大方のメンバーは集まったのに、白石はまだ来いひん。遂にはオサムちゃんに白石を呼んでくるよう云われ、俺は強制的に校舎へと追いやられてもうた。いや、呼んでくるも何もどこにおんのか知らんし……。保健室、職員室、後はどこやろ。とにかく白石がおりそうな場所を順番に訪れてみるけど、一向に見当たらん。教室にでもおるんかな?まさかとは思いながらも、一気に3階まで駆け上がる。

「なんや、教室におっ……」

白石はおった。みょうじさんと、二人で。

俺は見付からんよう慌てて姿を潜め、そーっと教室のドアに手を掛けた。大して開けられへんかってんけど、二人の声をキャッチするには十分や。ちゅうか俺より先に教室を出たはずの白石が、どないしてみょうじさんといてるん?意味わからん。中から聞こえてくる二人の笑い声が、俺の焦りや苛立ちに拍車を掛ける。「ほんでな、忍足くんが」忍足くん?俺の話しとるんか?気になるあまりこっそりと顔だけ覗かせると、不意に白石と目が合うた気がして、すぐに引っ込めてからまたゆっくりと中を覗いてみた。

「なまえちゃん。謙也みたいなデリカシーあらへん男なんかやめて、俺にしときや」

白石が、みょうじさんの髪に手を伸ばした。段々と、顔が近付いていく。触んな。触んなや!カッとなった俺はぶっ壊す勢いでドアを開けると、みょうじさんの手を掴んで走り出した。

「お、忍足くん!?」

行き先なんて知らん。ただただ、無我夢中で走った。その手を強く、握り締めて。




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