次の日、みょうじさんが登校して来てくれたことに、俺はまずホッと胸を撫で下ろした。目が合うなりごっつ睨まれたけど、俺があかんかったんやもんな。しゃあないっちゅー話や。みょうじさんの席は白石の左隣。前の席の奴は、まだ来とらんな。ちゅうか前って誰やったっけ。小林?稲垣?……っていまはどうでもええか。俺はみょうじさんの前の席に腰を下ろした。またしてもぎろりと睨まれてもうたけど、怯んだらあかん、怯んだらあかんで忍足謙也!

「な、なあ、みょうじさん」
「……なんでしょう」
「あんな、昨日のことなんやけど」

怖い。怖すぎるでみょうじさん。俺はすっかり畏縮してしまい、中々謝辞を口に出来んまま経つこと数秒。どないしよ。この感じ、汗がドッと噴き出てきそうや。ちょお助けてえな白石。ってあれ、白石おらん……。

「で、用件はなんなん?何もあらへんのやったら、わたしトイレ行きたいんやけど」

行きたいっちゅーか、いままさに行こうとしとるやん。最近流行りの「トイレ行ってくるなう」やで。……って解説しとる場合ちゃうか。席を立ったみょうじさんを慌てて座らすと、俺はパッと頭を下げた。思いの外勢いつけすぎて机に直撃してもうたけど、なんとか耐えた。

「昨日はほんまにごめんな。ほんまに、ほんまにごめん」
「……」
「いきなりあんな事云うて、みょうじさんに嫌な思いさせて、ほんまにごめん」
「……もうええよ」
「駄目や。みょうじさんが許してくれるまでなんぼでも謝る」

頭を下げたままやから、みょうじさんが今どないな表情をしとるのかは分からへん。とにかく俺は謝り続けた。何度も何度も、「ごめん」を口にした。みょうじさんの視線に、さっきのあの睨まれた時のようなちくちくした感じはせえへんかったけど、いま顔を上げて、目を合わせるのはちょっとだけ怖い。

「顔上げてや、忍足くん」
「ゆ、許してくれるまでは絶対に上げん!」

ぷっと、聞こえたのは小さく噴き出す音。空耳ちゃうねんな、そう自分に云い聞かせながら怖ず怖ずと顔を上げると、困ったような笑みを浮かべたみょうじさんが目の前におった。

「やっぱり、忍足くんらしいわ」
「え?」
「そないに大事にしとったんやね。その、ええっと……星子ちゃん?」
「お、おん!」

みょうじさんは、星子の話を相槌を打ちながら笑顔で聞いてくれた。どういう性格やったんかとか、普段は何を食べとったんかとか。あと、どういう仕草に可愛ええ思てたんかとか。ほんまは星子の名前すら聞きたない筈なのに。教えてや、と云うてくれたみょうじさんの優しさが嬉しかった。せやけど、それよりも何よりも嬉しかったんは、みょうじさんがこうして笑てくれたこと。ほんでみょうじさんの笑顔を見る度に、どきどきしてまうねん。あかんわ。忍足謙也、どきどきしとるなう。



「#オリジナル」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -