俺の目の前には、ぐったりと横たわるグリーンイグアナの星子。もう二度と、その躯が動くことはあらへん。しゃあない。しゃあないことなんや。人間然り、イグアナ然り、どんな生き物にも寿命っちゅーもんがある。星子との別れの日が今日やったんやと、納得するしかあらへんのや。

「星子……」

星子の亡骸を両手にしっかり抱き、重たい足取りで向かった先は自宅の庭。埋葬すべくその躯を地面に横たえると、俺は土を掘り返した。毎日、毎日手を合わせなあかんなあ。そうせんと星子のことや、きっと寂しくて泣いてまうもんな。気づけば俺は、泣いとった。夜が明けた。せやけど俺のこの喪失感や哀しみがたったの一日で洗われるはずもなく。朝練を終え、白石と教室へ向かう俺。はあ、なんもやる気がせえへん。星子……。

「ん、そういや確か今日やんな」
「……何がやねん、白石」
「担任が云うとったやん。転校生来るって」
「ああ……せやったなぁ」

季節外れの転校生がやって来る。しかも、俺らのクラスに。しかもしかも、噂によると転校生は女の子。数日前にその報せを耳にしたときは、俺も周りの奴らと一緒になって騒いどったっけ。どんな子なんやろう、可愛え子ならテンションとスピード一気に上がりそうや!なんて。星子を失ったいまは、正直どうでもええっちゅう話やけど。

「よっぽどショックやったんやな。その、名前なんやったっけ、ええっと……セワシ?」
「そらのび太の孫やん」
「ほなら……マツコ?」
「デラックスかい」
「たしけ?」
「誰やねんそれ」

驚いた。白石のボケに突っ込みを入れる気力が、いまの自分にあるなんて思いもせんかったから。いや、これは気力も何も条件反射なんやろか。ボケられたら突っ込まなあかんっちゅう、大阪人特有の。教室に着くと、案の定クラス全体が浮足立っとるのがようわかった。今は職員室で担任と話をしとる最中とかで、わざわざ見に行っとる奴もおるらしい。……はあ、いっそのこと星子が転校生やったらええのに。カムバック、カムバック星子。

SHRが始まった。どうでもええねんけど、今日もさすらっとるな、担任の頭。そういやあいつ、ちょい前までヅラ被っとったよな。開き直ったんやろか。まあ、どうでもええねんけど。

「ほな、転校生を紹介するでー」

みょうじ、担任はドア越しに名前を呼んで入室を促す。ふーん。転校生はみょうじっちゅうんや。ざわつく周囲を余所に、一人頬杖を突きながらドアが無遠慮に開く音を聞いとった俺は、転校生の姿を見るや否や、己の目を疑った。

「……星子や」
「お前ら少し静かにせえ!ほな、自己紹介頼むわ」
「星子や!」

俺は勢い良く立ち上がる。ガタン、と派手に倒れる椅子なんか気にも留めない。あれは、星子や。俺の直感が、それを知らせとった。彼女は、星子の生まれ変わりやと。どこが似とるんやろう。強いて云うなら、目やろか。あの穏やかで、それでいて力強さや逞しさを秘めとるような目が、星子に瓜二つやった。「星子……よう戻って来てくれたなぁ」「あの、わたし星子ちゃうねんけど……ていうか星子て誰」転校生の前まで足を運んだ俺は、その顔を間近で見つめる。まじまじと、見れば見る程星子の生まれ変わりとしか思えんくなる。思わず抱き締めたくなったが、そんな情熱溢れる衝動をどうにかこうにか抑えると、俺は星子……もとい転校生の問い掛けに答えるべく口を開いた。


「星子は、俺が飼っとったイグアナやで!」


ほんで、殴られた。



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