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スポットライトの住人であるために

※「輝け!グレイルライブ」を受けた謎のアイドルパロです。特異点の中の話ではありません。




アイドル。キラキラしているもの。キラキラし続けなければいけないもの。可愛らしく、美しく、恰好よく、歌えて、踊れて、演じれて、人に勇気を与え、……。まさに理想と夢を詰め込みすぎて中身が漏れ出そうな存在。

私はそんなスポットライトの下で輝く偶像になりたいとはちっとも思わなかった。だって、「この子はこういう子だ」というファンの期待(もうそう)に応え続けなければあっという間に輝きは消え失せ燃えて死んでしまうんだから。
それでもスポットライトを浴び続けたいと志願する様には尊敬も軽蔑もする。夢を諦めず努力する人だっていれば、単に承認欲求を満たしたいだけの人も当然いるわけだから。

だから、私がアイドルをやってるなんておかしい。

「次は湊だけ取材で他は先レッスン場な。ってなわけで、湊とっとと移動しますよ」
「はーい」

気だるげに答えてマネージャーの後をついていく。

何故か私には私の想像以上にファンの人がいて、ライブやら取材やらラジオやらに出演させてもらっている。この世界はトチ狂っている。全然アイドルらしい顔じゃないのに。でも、本当にそれはありがたいことで。応援にはできる限り応えたいとは思う。

「後ろ乗って。メシ食う時間ねーから、湊が好きなやつ買ってきたぜ」
「ありがと……あ、このサンドイッチ大好き。覚えててくれたんだ」
「食いもんには人十倍くらいうるさいアイドルがいるんでね、これくらい覚えとかねえと」
「うっさい。美味しいと気分上がるでしょ」
「へいへい。まあ気持ちは分かるけどな」

眉をつり上げて車に乗り込む。

このマネージャー・ロビンは顔がめちゃくちゃ整ってるし細身だし声もいいしトーク力もあるし運動神経も良さそうと、一見欠点がなさすぎる人。なんであんたがアイドルしてないんだ。まあ、確かに気遣い加減はマネージャーっぽいので、性に合ってるのかもしれない。社長に振り回されて苦労してるけど。

「取材終わったら新曲の振付覚えて今日は終わり」
「え、もう振付できたの?早……」
「歌にステータス振ってないでダンスの振付ちゃんと覚えろよな。やればできるんだから」
「う。頑張ります……」

スパイスが効いたビーフと黒糖ブレッドを味わいながら体を縮める。先生に怒られたく、というか社長に「これくらいのダンスもできないんですかぁ〜?」とか煽られたくないので、覚悟を決めるしかない。


ふと車のウインドウを見れば自分が映ってる。たぶん可もなく不可もない顔に疲れが見える。見れば見るほどアイドルらしくはない。裏の顔なんて何でもこんなもんだろうけど。

暗い自分の顔を見ながら、いろんなことを思い返す。社長にスカウトされた時。ロビンに初めて会った時。ユニットのメンバーを顔合わせした時。ボーカルで褒められた時。ダンスをめちゃくちゃ指摘された時。初めての営業でお客さんが私に不安そうな眼差しを向けた時。初めてファンレターをもらった時。いろんなことが頭の中を駆けていく。死ぬ間際でもないのに。静かになればいつもアイドルになってからのことを振り返ってしまう。

「またアイドルかぁって思ってんだろ」

ロビンに声をかけられて我に返った。口の中に残っていたサンドイッチを飲みこんで尋ねる。

「……なんで分かるの?」
「そりゃそんな辛気臭そうな面してりゃ誰でも分かるっつーの。飽きるくらい聞いてるし」
「……ごめん」

そりゃそうだ。アイドルのメンタルをカバーするのもマネージャーの仕事のひとつで。申し訳なさが胸を占める。ほんとこんな面倒な女、仕事でなくてもやっていけないだろう。ロビンは本当よくしてくれている。

「もっと自信持てよ。今日も事務所でファンレターの山見たろ。アンタにもファンがあんだけいるんだから」
「うん……ほんと、ありがたいよね」

天狗にならずにひとつずつちゃんと読んでいる。ファンの気持ちが重圧になることも疎ましくなることもあるけど、全部受け止めている。受け止めなければと思う。アイドルとは、ファンの期待(もうそう)に応えるものだから。

なおも暗い表情でいる私に、ロビンは言う。

「――――正直社長がオタク連れてきた時、マジか?って思った」

唐突にディスが始まった。ケンカを売られている。思った、というか「マジで?」って言ってたじゃん。私も思ってたけど。

でもロビンは余計な一言が多い皮肉屋だけど、それだけではない人であることを私は知っている。黙ってその続きを待つ。

「でもまあ、そんなのオタク自身が一番よく分かってて、だからこそあのメンバーの中じゃ誰より努力しててさ。まあ、見てる側としちゃ応援して、サポートしたくなるもんだ。んで、その努力が運よくちゃーんと実ってるワケで。それを少しは素直に喜んでもいいんじゃねえの」

よく聞くような慰めの言葉。けれど偽りなく本心からの言葉であろうことは、泣きたくなるくらいひどく優しい声音で分かった。

「ま、オレも、黒瀬湊ってアイドルのファンなんで」

――――少し。視界が滲む。ずっとこんなアイドルの相手をしていたマネージャーから真摯であたたかな気持ちをもらって、胸が明るくならないわけがない。自然と口の端が上がるのが自分でも分かった。

「……ロビン」
「あん?」
「――――ありがと。これからもマネージメント、よろしくね」
「……はいよ」

ロビンが優しく目を細めたのが、車のルームミラーに映って見えた。



マネージャーとアイドル、いいな〜という話です。アイドルパロ大好きなんですが、緑茶はアイドルやらさなさそうだし散々ジャーマネやら言われているので……。普通に特異点で良かった気がしていますが。
ちなみに社長はBBちゃんで、ユニットのメンバーはFateキャラを想定してません。