×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -

おぼろげな夢をつむぐ

それを一目見たとき、声を失った。

カルデアの掲示板に新たに召喚可能になったサーヴァントや概念礼装の紙が貼られている。その中にはロビンフッドの元マスターの顔があった。百戦錬磨の老騎士ではない。どこにでもいて、けれどロビンフッドには、名前のない青年には眩しかった少女だった。少女は月を背後に、何かを祈るように願うように手を合わせている。

通常、サーヴァントは以前参加した聖杯戦争があればその記憶などない。だが、座に記録されるだけでなく分霊体にその記録の一部が持ち込まれることもある。現にロビンフッドの他にも多くのサーヴァントが聖杯戦争の記憶が刻まれていた。
ロビンフッドが持っていた記憶は、ちっぽけな願いが叶った月の聖杯戦争。そして月の裏側での出来事だった。
散り際に、「さよなら」と言った少女に対して青年は「またな」と返した。返したが……こういう形になるとは思ってもみなかった。


レア度の高い概念礼装は元の人物があまりにも強大でなければ、またマスターの同意が得られれば具現化して存在することができるという。とはいえ、未だにそうなった例がない。それに、少女が描かれた概念礼装は最高レア度の星五つ。「平凡」であることがコンプレックスだった少女にとっては笑える話だろう。そんなレア度だ。ピックアップされているとはいえ、出る望みは少ない。もともとマスターは運があまりよくない。

だからたらればを考えるのをやめた。これまで通り、穏やかな寝顔や、優しい微笑みや、美しい涙を流す最期の姿を、ふとしたとき脳内に思い浮かべよう。

そう、思っていた。

「ロビン!今ピックアップ中の概念礼装の女の子、ロビンの元マスターなんだって!?」

休憩中。ノックされたので許可すればマスターが息を荒げて部屋の中に入ってきた。あまりの勢いに退いてしまう。

気が緩んでいたこともあったせいで、マスターには少女のことを話してしまっていた。しかし、それもただの一度だけだったはずだ。詳しい容姿など伝えた覚えはない。とくると、誰かから吹聴されたに違いない。思い当たるのはどちらかしかなかった。ひとまず前科がある方を選ぶ。

「……どこかの皇帝様ですかい」

マスターが息を整えながら大きく首を縦に振る。ロビンは大きく深いため息をつく。

「だからって無理に呼ぼうとしなくていいですからね。オレは別に――――」
「分かってる!絶対会わせるから!」
「分かってねえよな!?」

突っ込んだ後それはいい笑顔でマスターは消え去った。召喚部屋だろうか。ロビンは頭痛がしてきた。

会いたくないわけではない。むしろ会いたい。もし、あのときの記憶があるのなら好きだと伝えたい。なくても愛していると告白したい。なんて、恋したばかりの少年のような気持ちなど誰にも打ち明けられないが。

期待はしないでおこう。したら叶わなかったとき、あまりにも悲しいから。



「ロビンさん」

それから数日。何かを探しているようなマシュと遭遇した。どうしたものかと声をかける前に目が合った。

「水色のチャイナワンピースを着ていて、ボブっぽいような髪型で、紺の瞳をした女性を見ませんでしたか?」

水色のチャイナワンピースは知らない。彼女は違う恰好だった。けれど。あの掲示板にあった知らせにあったボブっぽい髪型と紺の瞳を持つ少女は、そんな恰好だった。
ロビンは息を吸って答える。

「いや、見てねえな。どうかしたんで?」
「その、今回初めて『具現化』した概念礼装なのですが……先輩と私を見た瞬間、怯えた顔をしてどこか消えてしまって」
「……他にそれを知ってる奴は?」
「今のところダ・ヴィンチちゃんとドクター、数名の職員だけです。見つからなければサーヴァントの皆さんにも手伝っていただこうかと……」
「いや、オレが探す。マスターやマシュお嬢ちゃんは休んでるか他にやるべきことやってくれ」
「え、でも」
「いいから」

強い語気でもマシュが食い下がらずに口を開いたが、ロビンの瞳を見てぺこりと軽いお辞儀をし去っていった。

どうして逃げたのか。どうして怯えているのか。いくつかの予想はつく。正解は本人に問いただせばいい。顔のない王を発動し、ロビンはカルデアの中を探し始めた。


しばらくして、倉庫の隅でうずくまる少女を発見した。ふんわりというよりは量が多い髪。全てを拒絶するように丸めた小さな背中。ああ、いつかどこかで何度も見た光景だ。ロビンは気付かれないよう顔のない王を解除する。

「お嬢」

自分でも驚くほど優しい声音だった。それでも少女は体を一瞬跳ねただけで顔をあげることすらしない。一歩一歩近づく。

「アーチャー、来ないで……」

「次」会ったとき、なんて言われるかなど分かっていた。自分のことなど知らないはずだから。だから、覚えていて拒絶されることなど考えたことがなかった。胸に棘が刺さる。それでも近づかなければ、少女は怯えたままだ。

「やめて。アーチャーの顔、見たくない……」
「ひでえなあ。オレは会いたかったのに。お嬢はオレに会いたくなかったんで?」
「そんなことない。そんなことない、けど」
「けど?」

そこで少女は口を閉ざした。少女が続きを話すまでロビンはただ少女を見つめた。

「だって、せっかく会えたのに、別れちゃう……」

涙で濡れた声が小さくこぼれる。それはそうだ。出会いがあるなら別れがある。名前のない青年だって何度もあったことだ。離別、死別。いろんな出会いがあれば、いろんな別れ方があるだろう。今回は、世界を救えば元に戻るだけだ。

「それに、私は……貴方が好きになってくれたあの子そのものじゃない」

それを言えばロビンフッドだって月の裏側にいたアーチャーと同一存在ではない。
あの少年/少女のおかげで少しは成長したものの、根本は変わっていないだろう少女にロビンは笑ってしまった。漏れた笑いに少女が少しばかり怒りを込めて言う。

「……なんで笑うの?」
「いやあ、お嬢。そりゃずっと一緒は無理ですよ。そんなの夢物語だ。お嬢は知ってるだろ」

聖杯戦争のために大事だった人たちと別れた。苦しい決断だったはずだ。きっと出会った頃はずっと一緒にいられたらと願っていた。結局別れたのは自分からだったのに。

「つーか、オレだってそっくりそのままお嬢のアーチャーだったわけじゃねえし?お互い様だろ」
「……」
「オレは、別れる悲しみより会えた喜びを享受したいね」

こんなことを言うなんて柄にもない。どこぞの皇帝様はその通りだなと破顔し、どこぞの赤い弓兵は君がそんなことを言うなんてなと皮肉を言い、どこぞの桃色狐はどうしたんです?と訝しみ、どこぞの王様はそれらしいことを並べるものよと鼻で笑うだろう。勝手に言ってろ。こうでもしなきゃ、目の前の少女は名前のない青年の方を向いてくれないのだから。

ゆっくりと少女が顔をあげる。そして振り向く。顔は涙でくしゃくしゃになっている。お世辞にも可愛いと言えない表情だ。それでも名前のない青年は愛しいと思う。

「……あのね、名前のないひと」
「ああ」

立ち上がって青年へ駆け寄る。そのまま青年の胸へ飛び込んだ。抱きしめたのは一度きり。再びこの胸に少女を抱けて、青年はひどく幸せだった。

「会いたかった……」

本心を口にした少女に青年の唇がほころぶ。

「ああ、オレも会いたかったぜ、湊」

少女の名を呼べばさらに夜の瞳に雫がたまり、青年の服にシミを作った。



そういえばというか今更ですが、カルデアに来た話書いたけどあげてないし古いから書き直すか、ということでそんな話です。
概念礼装具現化云々、すごい無理矢理な話だな〜と思っています。「マスター」とか「疑似鯖」とか絶対嫌というか設定的にありえないので「概念礼装」にしたのですが、こっちも無理があって頭を抱えているところです。疑似鯖よりいいか……と諦めています。マスターが嫌なのは私がマスターがそう何人もいたらあんな苦労しないだろうたぶん、と思っているからです。あくまでたぶんです。
ゼルレッチとか聖杯アイリは強大すぎて無理、欠片男とかは危険視。EX主人公たちはたまに出る。レオはガウェインが良いのですと拒否した、という感じです。他にもたくさんいますが。
同一存在云々はリストランテかどこかで書きましたが、まあ本当に同じ二人が出会えるわけないし好きならそれでいいじゃんという。
お題配布元:いえども様