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世界を救うひと

世界を救ったら大事な人が死ぬけれど、大事な人を選んだら世界は破滅する。そんな究極のようでいてちっともそんなことはない質問をしたら、彼は一体どんな顔をするのだろう。馬鹿馬鹿しいとは思うけれど気にしてしまう。

「……またこんなとこにいて、どうしたんすか、お嬢」

ある一室でそんな風に考えていると、私を探していたらしい彼が話しかけてきた。読めない表情をしつつもどこか優しさが見える。彼はそんなことはないと否定する。けれど、やはり優しい人だと思う。話しかけてほしいときは疲れていても声をかけないし、一人になりたいときはそっとする。日本人でもないのに空気が読める。というか、なんだかんだ人を気に掛けて、気を遣う性分なのだ。

私はそれを感じて暗い気持ちが少し和らいだ。

「ううん、何でもない」
「ふーん。なら、いいんですけどねえ」

言いつつも隣に座る。大きい手が私のそれに重なる。一瞬体が跳ねてしまう。あたたかい。とても毒を駆使して戦う人の温度のように思えなかった。

「……何?」
「なんか変なこと考えてるみたいですから」
「そんなことないよ」

彼の手を握って誤魔化した。本当は考えているけれど。彼は目を細めてそうですかと言うだけだった。
やさしい、ひと。あまりにも優しいから、弱くて馬鹿な私はその優しさに甘えてしまう。

「……ねえ」
「何ですか」
「世界と私、選べって言われたらどっち選ぶ?」

返答が分かり切った愚かな質問をする。彼が自慢のハンサム顔をしかめた。

「何だよ、それ」

苦手な敬語をやめて、笑えねえとばかりに言う。そりゃこんな質問、笑えるはずがない。私の顔を見て冗談だと感じるほど彼は鈍くないし、むしろ人の感情に敏感だ。

「やっぱいいや。分かってるから」

世界とも即答できないけれど、私とも即答できないだろうと思っていた。ロビンは、名前のないこの人は、人間が好きというわけじゃない。でもありふれた人たちが紡ぐ生活が好きだったわけで。今も、「そんな規模が大きすぎて人類救済なんてやれるわけねえですよ」なんて私に愚痴りつつも、本気で取り組んでいるから。そういう彼を、好きになったから。

私は手を握りながら目を伏せた。彼が口を閉ざしたまま、何も話さないのが答えだ。それでいい。個人と答えてしまう人なら、名前のないこの人は“ロビンフッド“になれなかった。

「ねえ」
「……何だよ」
「世界、救ってね」

答えが出ない彼に、私は穏やかに言う。

私を、私のセカイを、とは言わない。できないことは知っている。世界を救うことは、結果的に私を、私のセカイを救うことになる。だから私は願う。たとえそれが私たちの別れになろうとも。本音を言ってしまえば、世界を救うこの旅路が永遠に続けばいい。でも永遠なんてどこにもないから。
本来はありえなかったこの時間が、幸せだ。

心の底からの微笑み。彼はしばらく私を見つめていた。

「……ああ」

沈黙の後、彼が強く手を握った。嵐を目の前にしたような険しい表情は消え、ひどく晴れやかで優しく慈愛に満ちた顔をしていた。それにもう一度私は口元に幸福を浮かべた。


覚えていなくても、いつかまた会えるように。世界を救ってね。



Fateの英霊は誰か個人を選ぶということをしない気がしています。清姫あたりは例外ですが。世界だと断言する、迷う、いろいろとあると思いますが、緑茶は即答もしないけど答えもしないタイプだと思っています。
そんな考えから浮かんだ話でした。タイトルは「ロビンフッドは世界を救う」、でもいいんですけど。ロビンフッドと出すのは違うなと思ったので。
ちなみにヒロインが「ロビン」などと呼んでいないのはわざとです。