何となく、彼にプレゼントをしたいと思った。
けれど湊にはお金などない。カルデアに稼ぐ暇などあるわけがない。ということで、金がかからないものをあげるつもりだった。湊の発想で彼にあげられるものなど数少ない。料理、は作っている。他に何かないものかと思案した結果。
「何をしているんだ」
「な、何でもない、です」
慌てて本を閉じる。草花に関する本だった。赤い弓兵は明らかに隠し事がある湊に近づいた。
彼女とは料理で揉めることもあるが、基本的に仲は良好だ。それが緑衣の弓兵のお気に召さないのだが。
「あの男のためかね」
「ち、違います」
唇を尖らせて否定する。そんなばればれ嘘をつく彼女を見つめてから赤い外套を着た彼が言った。
「ふむ。何かあの男とは相容れないが……私でよければ手伝おう」
「……」
少し視線を泳がせてから、ぼそぼそと呟いた。
「花冠」
「花冠?」
「作り方、教えてくれませんか」
何となく。彼に似合うと思ったのだ。ただの花束では味気ない。なら花冠でもあげよう。そんな子供のような考え。
湊は人にものをあげたことがないし、そもそも彼の趣味があまり分かっていない。
「笑わないんですね」
正直湊は笑うと思っていた。彼は薄く笑った。
「何。恋する少女の素朴な贈り物を笑う権利など私にはないさ。私でよければ教えよう」
こんなことを簡単に言うから彼はフェミニストだのハーレム野郎だの何だの言われるのだろう、と思った。
「あのね、ロビン」
戦から帰ってきた青年を部屋で出迎える。彼は少し疲れているようだった。
「ちょっと目、閉じてくれる?」
「いいっすけど……何だ、労りのキスでもしてくれるんで?」
「早く」
軽口は無視して急かす。
「へーへー」
目を閉じてロビンフッドは湊に届きやすいようにかがむ。
赤い弓兵に教えてもらった花冠ははじめてにしては上手く作れていた。そっと彼の頭に被せる。
「……ん、いいよ」
「何乗せ、……花冠?」
頭に乗った花冠を手にして眉をひそめた。湊は彼と視線を合わせずに言う。
「なんか、あげたかったから……こんなんでごめん」
彼女の顔はうっすらと赤く、同時に少し暗かった。彼はそんな彼女を見て目を細めた。湊の頭を軽く叩く。
「ありがとな、お嬢。いいもん貰った」
「……ほんとにそう思ってる?」
「もちろん。枯れても大事にとっときますよ」
「……よかった」
彼の嬉しそうな笑顔が見れた。それだけで湊は胸が温かくなる。緑の彼へ微笑む。
「オレもお返しになんかやりますよ」
「いいよ、別に」
「お嬢がくれたんだからオレも男としてなんかやらねーと気がすまねえんだって」
「ふうん」
そんなものか。無理しないでねと言ってから、ベッドに座った。隣に腰を下ろして彼が尋ねた。
「お嬢、こんなん作り方知ってたんで?」
「エミヤさんに教えてもらった」
「は?あいつに?」
「うん」
にやけていた顔が一気に歪む。なんでそいつなんだと言わんばかりだ。
「調べてたら見られちゃったから」
「……全く……」
はあと軽くため息をついて、ベッドへ倒れた。そして湊へ笑いかける。
「ま、楽しみにしといてくださいよ」
一緒にいられるだけで、物なんかいらないのに。湊はそう思ったが口にはしなかった。
「うん」
彼女も微笑んだ。
女性が贈るなら花冠のは可愛いかなという。中編の方に移すかもしれません。いろいろややこしい設定なのですが。