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BLコンテスト・グランプリ作品
「見えない臓器の名前は」
- ナノ -

ふたりの部屋にキスマアク

唇が音を立ててねぶられる。それに羞恥を煽られ、すでに赤かった湊の頬がさらに赤く染まる。そんなことはないと分かりながらも、生気を吸い取られているような錯覚に陥ってしまう。このままだと流されてベッドに押し倒されてしまいそうになる。湊はロビンの胸を押して制止した。

「ロビン、待って、んっ」
「何だよ」

多少不満そうな顔をしてロビンはキスを止めた。キスは止まったが、手は胸に伸ばされて感触を楽しむようにやわやわと揉んでいる。湊は軽く逞しい腕を叩く。

「ちょっと着替えるから……待って」
「着替える?」

湊の言葉を反芻した瞬間、すぐにロビンの口からあぁとこぼれた。そしていやらしい笑みを浮かべる。

「あれね。また今度、でしたもんねえ」

そう。あの白いベビードールを今夜は持ってきたのだ。ロビンもしっかり覚えていたらしく、楽しげに視線を逸らす湊を見ている。もう視線だけで湊の恥ずかしさゲージは振り切れそうだった。

「だからあっち向いて」

言っても美しい緑の瞳は湊から離れない。むしろさっさと着替えてくれと言わんばかりに微動だにしない。

「あっち向いて!恥ずかしいでしょ!」
「着替えてんの見るのも興奮するだろ。つーか、どうせ見せてくれんだから変わんねー、いてっ!」

湊が本気でロビンの手の甲をつねる。湊の激しい睨みに、へえへえとロビンは頷いて背を向けた。

衣が擦れ、床に落ちる音がしんとした部屋に響く。ロビンはというと口を閉ざしたままで、余計に湊の緊張を煽る。ちらちら広い背を見ながら、ゆっくり白い下着に着替えた。布面積は普通の下着と同じはずなのに、多いフリルや透ける生地のせいで下着であって下着でないもののように思える。

「……もう、いいよ」

湊の合図でロビンが向きを変える。舐めるような視線がいやらしい。胸元を隠して目を合わせようとしない湊に構わずギャザーを持ち上げた。

「なるほど」

ロビンが指の腹でギャザーの上から腹を撫でる。それだけなのに体が反応してしまう。
懇願を乗せた上目遣いでロビンを見る。どうかな。湊が部屋で再確認したときは子供が大人の真似事をしているようだったが、ロビンから見てもそうなのだろうか。青年はするりと湊が欲しい言葉をすぐにくれる。今回も感想をくれると思っていた。だが、未だに下着の生地を確かめるように触れているだけだ。

湊の視線にようやく気付きましたとでもいった風にロビンは艶やかに微笑む。

「こんな大胆な下着買うなんて、お嬢もオレを誘惑したかったんですねえ」

かっと顔に熱がたまる。ベビードールはナイトウェアとして使う女性も多いらしいが、やはり勝負下着などにも使用されるため、そう思われても仕方ない。ただ、気になったのは彼の反応だけだったし、第一いろんな経験が名前のない青年である湊に誘惑できるわけもない。湊には自信も余裕もないのだ。

「違うってば!誘惑とか、私、できないし……」
「……ちゃんとできてるけどな」
「え?ひゃっ」

ロビンが何を言ったか聞こえなかった。なんて言ったの、と尋ねようとする前にベッドに組み敷かれ、妖しい光を放つ瞳が湊を見下ろす。普段浮かべるいたずらなものとはかけ離れた真剣な表情に胸の鼓動が速まった。
もう一度大きな手が湊の胸に触れる。あくまで優しいそれに、湊は少しだけ物足りなさを感じた。

「んなもん着てる惚れた女に何も感じねえほどオレは枯れてねえっつーの」
「……ばか」

苛立ちすら感じられる声で囁かれる。だが、いつも優位に立っている青年の声には余裕が足りないように思う。余裕を崩せたのが何だかひどく嬉しくて、湊の頬が緩む。
照れ隠しにこぼした湊の小さな罵倒を飲み込むようにロビンは口づける。湊も抵抗することなくそれを受け入れた。ロビンが上唇を吸って舌を侵入させると、少しだけ怯えた舌が応える。絡ませていくうちに互いの唾液が混じった。
湊も応戦できるようにはなったが、全く慣れない。青年を求めるままに、けれども多少おっかなびっくり唇を交わすだけだ。キスが終わると銀色の糸が繋がって落ちた。呼吸を整える湊を休ませまいとばかりにロビンが耳を甘噛みする。耳の形をなぞるように舌が動いて吐息が漏れた。

「や……ロビン、」
「せっかくいいもん見せてもらってんだ。よーく見せてくださいよ」

湊が無意識に下半身を隠すように右腕を伸ばすと、ロビンに枕元で手首を抑えられる。ロビンはそのまま耳たぶを丹念に舐め上げた。

「そんな、耳、舐めないでよ……っ」
「こうされんの好きでしょ、お嬢」
「あ、ひゃ……んんっ」

そんなことは多分ない。ロビンの低音があまりに良すぎて、耳元で聞くと体中に言いようのない感情が巡るだけだ。
湊の濡れた声を聞いてロビンは満足そうに笑う。首筋に舌を這わせながら、器用に左手はベビードールに潜り込む。すでにぴんと尖ったそれを軽く摘まむ。途端、湊の体が過剰なほど動いた。

「まだキスして耳舐めただけでこれとか、挿れたらどうなるんだろな。お嬢もこれ着て興奮してんのか?」
「ちがっ、ぁんっ!」

少し乱暴に胸の先端を摘まめば、ひときわ甘い嬌声が上がる。否定してすぐにこれである。自分の反応に湊の瞳に雫が溜まった。

「もっと素直に感じていいぜ」
「ん、あっ……もう、ばか……」

ばかと言いながらも夜の瞳は熱に浮かされて溶けている。無自覚な物欲しげな目。十代後半の少女が出せる色気とはとても思えない。とろけた目を見つめるロビンが息を呑む。すぐに唇が笑みを形作り、卑猥な手つきで腹を撫でた。

快感にぼうっとしていると、胸元に痛みが走る。赤い花が咲いていた。独占欲の印のようで、胸が喜びに満ちていく。自分もつけたくなって、湊はロビンの鎖骨に口づけた。

「何だ?お嬢、オレにキスマークでもつけたいんですか?」
「……うん」

赤らめて素直に頷くとロビンは急に表情をなくした。

「……ほー」
「嫌?」

叱られた子供のように目を伏せる。それにふっと柔らかい微笑みを漏らし、ロビンが言う。

「つけんならもうちっと強くして、長めに吸ってみな。オレはいくら練習してもらっても別に構わねえから」

上半身を起こす。ロビンはどうぞと言わんばかりに鎖骨や首筋に指を押し当てた。秋めいて気温も下がってきたとはいえ、下手したらシャツ一枚でも過ごせる。着崩しているロビンへそんな場所に印などつけられるわけがない。躊躇いの眼差しを向けた後、湊はおずおずとロビンに密着した。

どこにつければいいの?わかんない。迷った果てに湊は腕に唇を寄せた。思い切り口をすぼめ、強く吸い込む。十秒ほどで口を離すと、そこにはちゃんと鬱血痕ができていた。

「できた」

一度でできるとは思わなかった。鍛え抜かれた腕にくっきり赤い印が浮かんでいる。自分がつけたのだと思うと湊の目が柔らかく細められた。

「よくできました。じゃあオレはお手本をいっぱい見せてやりますよ」
「は?そんなのいいから、やっ!」

再びベッドに縫い付けられる。首筋、鎖骨、胸、腹、太もも。さすがに太ももで暴れたが、体格も力にも差がありすぎるロビンに容易く抑えられてしまった。しばらくして満足したのか、湊から離れてにやにや笑う。目線を少し下にするだけでたくさんキスマークがついている。嬉しいけどつけすぎだ。どうしようもなく恥ずかしくて湊は眉間に皺を寄せた。

「もう、こんなつけて……!体育のときどうすんの、ロビンのバカ!」
「頑張って早く着替えてくださいよ」

無理に決まってるでしょ、と言おうとしたところで口を塞がれた。誤魔化されている。内心むくれながらも、湊はそれを受け入れる。

腰に手を回してもう一度上半身を起こされる。キスしながらロビンの手は湊の尻に移っていく。撫でて揉んで。……何だか、胸よりも卑猥に触れられている気がする。

「ん、あっ……ね、ロビンはお尻、好き、なの?」
「あ?あー、あんま考えたことねーけど、お嬢の尻はめちゃくちゃいい」
「ばか、っあ、あ!」

唇を尖らせたところで身をよじらせる。太い指が濡れた秘部に入ったのだ。突然の刺激に湊は熱く甘い声を上げた。

「ここ、イイだろ?」
「ん、あっ、あん!ロビン、そこ、やぁ……っ」
「こんなにオレの指締めつけてぐちゃぐちゃに濡らしておいて何言ってんだよ」
「や、言っちゃ、やあっ!」

粘ついた水音がやたらと鼓膜に響く。中で蠢く指だけではなく囁かれた低音にも反応してしまう。声を抑えようとしてもできない。逃げようとしても無理矢理体を寄せられる。
湊の頭がちかちか点滅してきた。もう少しでイけそう。青年からくれる快感に身を任せていると、急に中の圧迫感がなくなった。

「あ……」

つい残念そうな声がこぼれた。失言だったと気付いたが、

「何だよ。やめてほしくなかったか?」

ロビンがにやにやと笑った。でも、と腰を浮かせる。硬い感触。出してる。勃って、る。いつの間に脱いだのか。しかもちょうど愛液で濡れた湊のそこにぴったりとくっつけている。ただでさえ赤い湊の顔がさらに赤みを増していく。それでも、腹の奥がきゅんとした。早く、欲しい、なんて。そんなやらしいことを思ってしまった。

「オレもそろそろお嬢のナカ入らせてくださいよ」
「んっ、擦らないで、よ……っ!」
「お嬢が吸い付いて離さないだけでしょ」
「ちが、んぅ、」

少々乱暴に唇を重ねられた。その隙に異物が湊の中に入っていく。座って向かい合ったまま繋がっていると、ひどく安心した。名前の無い青年の顔が良く見えるから。緑の瞳はしっかりと湊を映していて、悦楽と愛情の色が浮かんでいるから。湊はこの世の喜びを享受している気さえした。

最初はゆっくり、徐々に激しくなっていく律動に湊の体の力が抜けていく。

「あっ、あ、ろびん!そこっ……、だめえ!」
「はっ……、イイの間違いだろ」

確かに、下から貫かれるのもまた違う気持ち良さがあった。素直に首を縦に触れずに、湊はぎゅっとロビンの首に腕を回した。胸がロビンの顔に押し付ける形になってしまう。ロビンは嫌な顔ひとつせず、むしろ淫靡に笑ってこり固まった先端を吸う。

「あ、ん!あ、ぁあっ、すき、なまえのないひと、だいすき……っ」
「っ、あー、クソ、これ以上煽んな……っ!」
「あっ、すき、あ、あぁ、ん……!」

すき、すき、だいすき。うわ言のように繰り返す。素直になれない分伝わるように。
大きく一突きされたところで、快感が体中を支配して意識を一瞬奪った。もう何突きかされた後、青年自身も湊から抜かれてベビードールに精液がかかる。
あ、汚されちゃった。怒りは湧かなかった。ただ淡々と事実を受け入れ、白濁の液体に塗れたベビードールを湊はうつろな目で見つめていた。

「湊」
「ん……」

己の名前を呼ばれ、呆けた思考のままキスをした。


その後、「もう一回やらせてほしいんですけど」と言われ、嫌と断れずに体を重ねてしまい、行為を終えたのはおそらくほとんどの者が眠ってしまったのではないかという時間帯になってからだった。今は湊がつけた跡がある右腕でロビンに腕枕をされている。

「明日休みで良かったー……絶対起きれないもん」
「せっかくなら朝までやります?」
「ばか」
「いてて。冗談だっつーの。……しっかし、エロい下着のお嬢、やらしいのに初々しくて可愛かったですねえ。また着てくださいよ」
「……考えとく」
「お、じゃあまた着てくれるわけだ」
「……ばか」

名前の無い青年から顔を逸らす。だってせっかく買ったのにもったいなじゃん。そう答えると、青年はそうですねー、もったいないっすねえ、とくつくつ喉を鳴らして笑った。何もかも見透かされている。ずるい。

むすっとしたまま、逞しい胸板にすり寄って、好き、と小さく呟く。その声が届いたのか分からないが、名前の無い青年は少女の額に優しいキスをひとつ落とした。



ベビードールの続きで初めてキスマークをつける話です。別個にしようと思ったんですが、まとめてもいいかと思い。
次はちびちゅき的には紅葉狩りか文化祭なのですが、どうしようか迷っています。文化祭の方が浮かびやすいので、文化祭でしょうか。単純に文化祭デートか、そうでないかは迷っています。今回のベビードールのように健全からの裏コンボかもしれません。予定は未定です。