×
BLコンテスト・グランプリ作品
「見えない臓器の名前は」
- ナノ -

いつでも罠にかかる獲物

今日は体育祭。さすがにこの学園に来て半年にもなれば、臨海学校だの体育祭だのといった行事をのほほんとやっている状況にも湊は慣れていた。

「……平和だ……」

湊はぽつりと呟いた。眼前では英霊たちに混ざって人間が入ったあまりにも理不尽なレースが始まって終わっていたが、いつものことである。よく見ればアタランテは一位になれたようだ。応援する前に終わってしまったので、湊は後で声をかけることにした。

用意してきた水筒の麦茶を飲む。氷をたくさん入れて冷えた麦茶は喉をよく潤す。日もさんさんとし、運動もしているせいで喉がすぐ乾く。そろそろなくなりそうだ。
百メートル走も終わったところで、隣のジャンヌオルタが大きなため息をついた。

「あー、嫌だわ。帰りたい」
「そういえば二人三脚、ジャンヌさんとだっけ」
「そうよ。なんで私があの女と……」

そりゃあ自分の元になった奴と二人三脚とかきついに決まっている。湊も考えるだけで同じ顔になりそうだ。ただ、ぶつぶつ愚痴をこぼして顔を思い切り歪ませているものの、ジャンヌオルタはきちんと出るらしい。

「文句言う割に出るんだね」
「出ないともっと面倒なことになりそうだからよ。……行ってくるわ」
「行ってらっしゃい」

復讐者といっても根は真面目だなあ。そう思いながらひらひらと手を振って見送る。
湊が出ることになっている玉入れやパン食い競争はまだだ。とはいえ出店を回る余裕もない。出番まで席で観戦していることに決めた。



パン食い競争は幸運なことに英霊が混ざっていない走者ばかりで最下位は免れた。しかし、玉入れはそうもいかず、カゴが動くタイプだったせいで全く入らずに終わった。札を投げることもあるので投げる力はそこそこなのだが、英霊、しかも俊敏なハサン相手ではそうもいかない。湊は目指せ優勝!なんて熱血タイプでもなければ点取りの当てにされているわけでもないだろうから構わないのだが。

午前の競技がすべて終了したところで昼休憩になった。湊はお弁当を持ってロビンを探し始める。体育祭が始まってから、ロビンのことをレーン内でしか見かけていない。
せっかくのイベント事、昼休憩くらいは一緒にいたい。見つけてもビリーやジェロニモなどといるなら、エリザかジャンヌオルタ、もしくはアタランテなどと食べるか、最悪一人で食べるつもりでいる。
実は朝にお弁当はすでに渡してある。そこで約束をしなかったのは、ロビンの交友関係を考えてのことである。同性との付き合いは楽しいし大事なことだ。当然一人の時間も。湊も型月学園に来て改めてそれを感じている。べたべたしすぎるのは良くない。

皆がシートと弁当を広げて食べ始める中、一人で弁当を持って人を探す。少し見回した後、アタランテがりんご飴を持って歩くのが見えた。湊は少し声を張って話しかける。

「アタランテ!」
「湊か。どうした?」

アタランテが湊へ振り向く。凛々しい目と声に反し、ぴょこぴょこ動く獣耳としっぽが可愛らしい。しかもりんご飴を持っている。そのギャップに余計目元が緩みそうになる。

「ロビンを探してるんだけど、どこかで見てない?」
「なるほどな。午前中あの木の下にいるのは見たぞ。それ以降は知らないが……」
「そっか……。あ、そういえばアタランテ、速さを競うやつだと全部一位だったね。おめでとう。アタランテはやっぱりすごいや」
「ありがとう。私は足の速さには自信があるからな」

湊が賞賛するとアタランテの顔に喜びが浮かぶ。出会った頃は聖杯戦争とはいえそっけない態度だったのに。しかし、今でもこうして優しく受け入れられていると思うと、湊の胸に穏やかな光が灯る。

「あの、私もうちょっとロビン探すつもりんだけど、もし見つからなかったら一緒に食べてもいいかな?」
「ああ、もちろん。昼はずっと食堂にいるからいつでも声をかけてくれ」
「うん。ありがとう」

アタランテと別れたすぐ後、ロビンが見つかった。目線が合うと声をかける前にロビンは湊へと近づいてきた。

「お嬢、いたいた」

ちゃんと朝に手渡した弁当を持っている。出てきた言葉からしてまだ食べておらず、湊と一緒に食べてくれるようだ。

「今まで探してたのに、ロビンどこいたの?」
「旦那とちっとあっちの屋台の方で話しててさ。んでお嬢探してた」
「あっちの屋台も見たのに……人多いから見えなかっただけかな」
「かもな。さっさと食べねーと時間なくなるし、早く食いましょうや」
「うん」

二人はちょうど空いていた木の下に陣取った。シートなど用意していないので膝の上に弁当を開ける。鮮やかな色彩といい、野菜と肉の香りといい、単なる運動会の弁当にしては気合が入りすぎていた。

「ビリーさんとかと食べなくて良かったの?」
「別に?オレたちどこでもつるんでるわけじゃねえしな」

男友達は女友達よりべたべたしないと聞く。ロビンやビリーは他人に深入りしないし、ジェロニモもダンもそういったことを弁えている大人である。ロビンが言うならそういうものなのだろうし、それでいいのだろう。

「それに食べた感想とか生で言いたいですし?お、これうまい」

ロビンがかぼちゃを咀嚼すると、綺麗な緑の瞳が輝く。うまい。嘘偽りのないそのたった三文字だけで、朝早く起きて作った甲斐が生まれる。

「良かった」

唇から漏れた声はとても小さくなってしまったが、心の底からの気持ちだった。湊の頬は緩み、口角も自然と上がる。

二人で歓談しながら食べていると、唐突にロビンは湊のジャージへと目を向けた。少し視線を上下させた後、湊へ尋ねる。

「ずっと思ってたんだけどよ……お嬢、全身ジャージで暑くねーの?」
「ロビンだって全身ジャージじゃん」
「オレはいいんだよ、オレは」
「何それ」

湊は顔をしかめる。正直、湊だって暑い。湿気はないが気温は高め、着込んで運動もしているとなれば暑い。木陰にいてようやくましになったほどだ。

「でも考えてもみてよ。女子用のやつブルマだよ?ブルマとか無理。マジで無理。ていうか今の時代許されないよ、ブルマとか」

夏用として男子にはハーフパンツ、女子にはブルマが用意されている。何故だ。湊は配布された瞬間、藁人形を作ろうか迷ったほどである。そして絶対に全身ジャージか、どんなに暑くても下は死守すると即決した。
太ももどころか付け根も見える、お尻のラインは丸分かり。そんなもの誰が履くというのだ。いや、気軽にほとんどの女子は履いているが。湊が見た限りだと耳にピアスをつけたショートカットの女性だけが仲間だった。

「まあそうかもしんねーけど。お嬢履かないのかー、残念」

そう言ってロビンは弁当に最後残っていたとんかつを食べ切った。ロビンの表情にも声音にも本気で残念そうな表れはなかった。
だが、湊は知っている。こう言っておけば履いてくれるかもなあとロビンが考えていること。そして湊は分かっている。履くかもなあと湊が思ってしまうこと。履いてくれたらいいなあ程度でも、そこまで知り尽くしているから残念そうでもないのだろう。

湊の頬が火照る。むっすりとしたまま睨みつけた。

「ばか」

口にしても効果はない。気にせず策士は手を合わせて食事の礼をしている。
しばらく目を吊り上がらせていたが、湊は諦めてぼそぼそと言う。

「……部屋の中なら、履いてもいいけど」
「お、履いてくれるんですか。そりゃ楽しみですねえ」
「ばか!」

青年は都合のいいところばっかり聞いている。湊は耐えきれなくなって、とんかつを口に含む。そして、弁当をすべて空にするまでロビンを無視することにした。



初めての運動会の話です。お弁当とブルマくらいしか話が広がらないな〜と思ってこれだけ。どうでもいいですが一応緑茶と同じ白組です。
ちびちゅき四巻を確認しましたが、おそらくバゼットさん以外はブルマです。
アタランテとはもうちょっと絡ませたいですね。あと、結構知り合いのような友達のようなキャラは増えてきているつもりなのでそのあたりとか。
履くと言ったので、ブルマ履く話は次の次あたりにやりたいな〜と思います。もしくは次考えている話が長くなりそうなので二話構成かもしれません。
タイトルは知っているし分かってるけど単純なのでやってしまうヒロインのことです。