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エスプレッソにシュガー8つ

授業も終え、草木に水もやった。バイトも入れてないし、聞いていないが恋人はすでに学校にはいないようだ。学校に居残る意味はもうない。ロビンはダンと別れて寮に帰ることにした。

「やあ、グリーン。今帰りかい?」
「おう。ビリーもか?」

校門を出ようとすると、ビリーが声をかけてきた。不思議とウマが合うので校内外で行動を共にすることが多い。

「僕も用事が終わってね。よければ寮まで帰ろう」
「いいぜ」

小川寮までの通りは生徒や他の住人たちで溢れており、かなりの賑わいを見せている。住人も増えたせいか店も充実してきたのもあるだろう。その分変な店も多いが。
今度またカードゲームをしようと話をしていたところで、ビリーがある店に目を向けた。

「ねえ、あれ、湊じゃない?」
「あ?」

ビリーの視線の先には新しく開店したらしいカフェがある。いかにも女が好きそうなデザインに凝った洒落た店だ。なかなか繁盛しているらしくテラス席にまで客がいる。店の中まで目をこらすと、確かに湊がいた。――――エプロン姿で。

客として入っているものだと思っていたロビンは目を見開き足が止まった。作る側ならともかく、給仕の方だったとは。

「……入ってみる?」

どこか楽しそうにビリーが提案する。
ビリーはロビンと湊の関係に口を出してこないものの、面白そうに見ていることはよくある。月の関係者のようにとやかく言われるのも鬱陶しいが、これはこれでむず痒くはなる。

とはいえ、気になるのは事実。二人は店に入ってみることにした。

「二名様ですね。こちらへどうぞ」

風紀委員長に似た顔の少女がにこやかな笑顔で席まで案内する。男も何人かいるが、さすがに男だけというのは数組くらいだ。席に座ってメニューを見た。甘いものが多く、写真を見ているだけで十分カロリーを摂取した気分になる。

そこでロビンはちらりと湊を盗み見た。よく見慣れた制服にエプロンをつけたのみで、ウエイトレスらしさはあまりない。客から注文を受け付けており、ロビンが入店したことに気付いていないようだ。

「僕はエスプレッソにしようかな」
「オレも」
「すいませーん」
「はい、今お伺いし、……」

呼びつけてやってきたのは湊だった。ロビンとビリーを見た瞬間、湊の顔が思い切りひきつる。絶望と羞恥が混ざった複雑な表情が予想通りすぎてロビンは笑いそうになってしまった。

「客にその顔はないんじゃない?」
「なんで……ロビンが……ビリーさんも……」
「僕が見つけちゃってさ。君はバイトかい?」

ビリーが笑顔で尋ねると湊は言葉を詰まらせた。

ビリーは湊と同年代の風貌をしているが、湊は何故ビリーにはさん付けで敬語だ。強く出られないらしい。エミヤにはかなり辛辣なくせに不思議だ。尋ねてみて返ってきた湊の答えも「何となく」で腑に落ちない。ロビンなど初対面から敬語でなかったというのに。それは別に構わないのだが、ビリーへの態度は少々気になる。本当に「何となく」なのだろうが。

「臨時ですけどバイトです。一応今日だけの予定で。……それで、お二方のご注文は?」
「エスプレッソふたつ」
「お砂糖とミルクはどうされますか?」
「ビリー、いるか?」
「僕はいらないや」
「じゃあふたつともいらねえわ」
「かしこまりました。少々お待ちください」

真面目なところは真面目な湊は客と店員の関係を律義に守って敬語である。笑顔はないが贔屓目なしに礼はきちんとしていて気持ちがいい。ダンやビリー、ジェロニモなどには敬語だが、ロビンへとなるとかなり新鮮だ。普段ロビンの方が下手なので余計にそう感じているのかもしれない。

しかし。ロビンはぱたぱた動いている湊をもう一度見る。フリルついた真っ白なエプロン。下はいつもの制服とはいえ、湊が好んで着用するものではない。可愛らしくもあり、制服とのアンバランス感が奇妙でもある。

一口水を飲んだビリーは、湊を見るロビンに苦笑いしていた。

「グリーン、見すぎじゃない?」
「いや、なんかお嬢がウエイトレスってのも不思議でな」
「確かに。彼女ならコック役っぽいけどね」

厨房を覗けば料理しているのはタマモキャットやブーディカだ。二人で十分回るから給仕に回ってくれということなのだろうか。きっと頼まれたとき、湊は相当渋い顔をしていたに違いない。

繁盛していたので少し待つかと思えば、湊がすぐにロビンとビリーの元にやってきた。

「お待たせしました。エスプレッソおふたつです。ご注文は以上でよろしいですか?」
「うん。ありがとう」
「では、どうぞごゆっくり」

湊は軽くお辞儀をして再び注文を聞きに別の席へ向かった。

ロビンとビリーはエスプレッソに口をつける。あまり期待していなかったが、クセの少ない苦味とコクが調和したまろやかな味わいが口に広がっていく。

「美味しいね」
「確かに甘いもんと合わせるとちょうどいいかもな。……頼んでる奴あんまいねえけど」

そう、コーヒーの良い苦味があったところで、周りが頼んでいるパンケーキやらパフェやらの甘ったるさは相殺されない。甘いものが特別好きというわけでもないロビンは胃がもたれそうだ。二人は飲み終えてすぐに会計を済ませた。

「もういいの?」
「長居する理由もねーだろ」
「そうなんだけど」

何か言いたげな目をロビンに向ける。気付かないふりをしてロビンは鞄を持ち直した。束縛が強い男だとでも思われているのか。心外だ。
反応しないロビンにビリーは深く言及しない。湊の話はそれまでにして、カードゲームの話に戻った。

「じゃあ、明後日集まって酒場にでも行こう」
「了解。またな」

ビリーと別れ、ロビンは自室に入る。草花の香りがロビンを包む。鞄を置いて学ランを脱ぎ、シャツのままベッドに寝転がった。

呆けながらロビンはエプロンをつけた湊の姿を思い返す。可愛らしかったので明日褒めることに決めた。顔を真っ赤にしてそっぽを向く様子が容易に目に浮かぶ。また着てくれとロビンが頼めば湊はどういう反応をするのだろう。着ないから!と怒鳴るのか、今度ねとぼそぼそこぼすのか。それを想像して、ロビンは薄く笑った。



初めてヒロインがバイト(臨時)する話です。緑茶視点なので短めですが。たまにはこうして緑茶視点を書こうかなと思います。
セイバーリリィやマリー(も店員だったのかいまいち分かりかねますが)はエプロン着てませんでしたが、レジの玉藻が着てたっぽいのでいいかなと……。
次は運動会の話か、何かのプレイです。どちらにせよ箸休め的に運動会は書きたいですね。
タイトルはカフェの雰囲気に呑まれる緑茶とビリーのイメージです。