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ワンピースが生むプリズム

デートしたい。

以前の湊ならば、聞いた瞬間に「リア充爆発しろ」と中指を立てている言葉だ。恋人などいなかったのだから当然自分の口から出るわけもない。
そのはずだったのだが。恋人ができてからは思い切り掌を返していた。恋人たちを鬱陶しがっていたものの、それは羨望からくるものであって、本当にどうでもいいと思っていたわけではないのだ。

そして突然訪れた平和な学園生活。放課後恋人と手を繋いで帰ったなら、次はデートしたいと思うのが自然な流れである。


湊は鏡の前の自分を確認する。制服のスカートより丈の短いワンピース、柄のタイツ。勇気を出して購入したものだ。私服でスカートという選択肢は皆無だった湊にとって、ワンピース姿の自分は何だか奇妙だった。

でも、思っていたより悪くないんじゃないか。くるくる回ってみる。楽しい。

数分ほど部屋の中で踊っていたが、時計が視界に入り、はっと我に返った。部屋を出ようとしていた時間が過ぎている。にやけた顔を両手で叩く。さすがに浮かれすぎだ。
バッグを開き、忘れ物がないか調べる。財布も携帯もハンカチもティッシュもリップも、頑張って作ったお弁当もある。部屋の鍵を持つ。

もう一度だけ鏡を見た。今までで一番おしゃれな格好をしている。彼はなんて言ってくれるだろう。考えるだけでまた頬が緩む。

「いってきます」

形式的に言ってようやく部屋を出る。外に出たため、鼻歌を歌いそうになるのをこらえた。

そう。今日は、ロビンとデートなのだ。

待ち合わせ場所に向かうとすでにロビンが佇んでいた。何があるのか分からないので三十分前に着く気持ちでいたが、それよりも彼の方が早かったようだ。

「ロビン、ごめん。待った?」
「いーや全く。ちょいと前に来たくらいですわ」
「ならいいんだけど……」

ロビンの返事に安堵する。さらに三十分前に着いていたとかそういうわけではないだろう。

改めて湊はロビンを見た。アーチャーとしての戦闘服でもなく、多少崩している学ランでもない。初めて見る彼の私服。ラフだがおしゃれでもある。指は厳ついアクセサリーで飾られている。見た目だけなら(偏見とはいえ)湊の苦手な人たちが着そうな系統だ。ロビンらしいといえばロビンらしく、ハンサムな彼にはよく似合っていた。

その服、似合ってるね。湊が口を開く前にロビンが言った。

「お嬢、いつにも増して可愛いですねえ。そのワンピースとか、買うの勇気いったでしょうに」

――――この人は、湊の欲しい言葉ばかりくれる。湊のことをよく分かっているから。制服のスカートよりずっと短いワンピースなんて湊にとっては大冒険で。どうしてそんなものを買えたのか、その答えも。全部分かっているから、楽しそうに嬉しそうに意地悪そうに笑っているのだ。

欲しい言葉だったのに、それが聞きたかったのに。本心だと気付いているものの、こうも湊の心を見透かされるのは気分が悪い。
あくまで軽くロビンを睨んだ。すぐに目を和らげて俯く。

「だって、初めてのデートだし……」

喉から出た声は小さくなってしまった。ワンピースは買えても、まだ湊は素直に言える勇気はない。

「そうっすね。んじゃ、お嬢様のご期待にそえるようなデートにできるよう、尽力させていただきますよ」

ロビンがそんな湊に目を細めた。からかいは微塵もなく、美しい緑の瞳は優しい眼差しをしている。湊の胸にじんわりと熱がたまっていく。

「……別に、よく聞くような普通のやつでいいってば。っていうか、お嬢様やめてよ。似合わないし」
「はいはい」

ロビンは肩をすくめる。表情は変わらず柔らかい。湊もつられて唇をほころばせた。


今回のデート場所はいつもの街。遊園地や水族館といった分かりやすいデートスポットはまだない。知り合いに見つかることは避けたかったが、遠くに行かない限り無理な話だろう。
二人はカフェやアパレル店が並ぶ一帯を歩く。表は分かりやすくおしゃれな店が多いが、少し道をそれるとマニアックな店が建っている。

――――映画館で公開されたばかりの映画を見たり、お弁当を食べながら映画の感想を言い合ったり、公園でバドミントンをしてみたり。これってもしかしてなくても、模範的なデートなのでは?
湊は街並みを歩きながら思う。あまりにも充実しすぎているデートに喜びを隠せない。

「どうした、お嬢。何か気になるものでも?」
「あ、いや、特にない、けど」

必死で誤魔化そうと辺りを見回していたら、ロビンは何かあったかと勘違いしたらしい。湊は別の話題を振ろうと頭を回転させる。

「あのさ、ロビンの服ってどこで買ったの?」
「服?オレはここらへんで買ったぜ。お嬢は?」
「私もここらへん。いろいろあって分からなくってさ、悩んじゃった」

湊のファッションは「好きな系統かついろいろ許せる範囲」がモットーだった。
――――そんなのありえません。自分の好きな服装であるのは当然ファッションとして大事ですが、今回はデートなのですから、相手を悩☆殺!するような服装でなければ!
とは、玉藻の言い分である。悩殺はともかく正論すぎて湊は黙っていた。

そう、実は良妻賢部に入部してしまっていた。湊自身入部届を出したときはとち狂っていたと思う。しかし、これで気安く玉藻を初めとした女性に相談しやすくなったのは事実。こうなったら利用してやろうと開き直っている。

「なんか服買っておきます?」
「今はいいかな。バイトとか私まだしてないから、そんな使えないし」
「一着二着くらいオレが買いますよ。そんな高いもんじゃなければ、だけどな」
「えっ、いいよ、悪いし……。それにロビン、バイトとかしてたっけ?」
「まーいろいろ。金があるにこしたことはないんで」
「でも……」

言い澱んだところで気付く。
ここで一緒に服を見れば、彼の好みの系統というのも分かるかもしれない。もし着てほしいものがあれば、次回それを参考にすれば間違いない。あまりないと思うが逆もあるかもしれない。
買ってもらうつもりは毛頭ないが、そう考えた湊は明るく言った。

「買うかはともかく、ちょっと店入ろ」
「おー。いいのがあるまで付き合いますよ」
「ロビンのも見るの。まあ、私、男性のファッションあんま分からないけど……」
「オレは別にいいんすけど」
「あ、ねえ、メンズもあるみたいだし、とりあえずあそこ入ろうよ」

湊は笑って歩く速度を速めた。

デートなんて自分には縁のないものだと思っていた。だから、今は世界中がきらきらしているみたいだった。頭の中が本当に花畑になっていく感覚。きっと今周りの目に映る湊はひどく子供っぽく見えているだろう。でも、それを気持ち悪いとは思わなかったし、今の振る舞いをやめるつもりもなかった。

「ロビン、早く!」
「そんな急いだって店は逃げねえだろ」

湊の顔には何のまじりけもない笑顔が広がっている。ロビンは仕方ないというように追いかける。だが、頬には好意がしっかりと刻まれていた。



はじめてのデート。
もうちょっと詳しくデートコースの内容とか書くべきなんだろうなと思ったんですが、言いたいことは「デート楽しい!」だけであること、だらだらするのでまあいいかなとも。
やたら玉藻が出張ってる気もしますが、BBとかアタランテとか赤王とかエリザとかザビーズとか、いろいろ絡ませたいなと思っています。できるかは謎ですが。良妻賢部の部員とも絡ませたいとは思いますが、いまいち分かりません。
緑茶の格好はパセラコラボのときっぽいイメージ。
遊園地や水族館はないと言っていますが、学校外街並みの描写が少ないためどうなっているのか分からないです……。すみません。経営者とか従業員もキャラクターであるので、早々にあるというわけではないかなと思っています。水族館とかは世話もしなきゃいけないですし。