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早撃ちガンマンとコーヒー

今はカーレースの真っ最中。エリザベートはレースクィーン的な何かになっていて(あくまでしているではなくなっている)、ジャンヌオルタは開始前まではそわそわしていたものの開始になると拗ねてどこか行ってしまい、アタランテは何故かどこにもおらず、よくたかりに来る茨木童子は屋台でお菓子を食べ尽くそうとしていた。

そんなわけで湊はロビンフッドと一緒に「ネロは今回も派手だね」「まああの皇帝サマだし」とか、「禁制とは。うごごごご」「やっぱりバーサーカーじゃねえの?」とか、「あのネタ枠組がマジでネタでウケる」「夏の暑さにやられてんのかね」とか、「無垢な少女にパパと呼ばせるメガネアラフィフの犯罪臭がヤバイ」「いやもとから犯罪者だろあのオッサン」とか笑いながら観戦していたのだが、何だか場の空気に酔って疲れてしまい、少しだけカルデアに戻ってきたのである。
ロビンは一緒に行こうかと心配してくれたが、残って状況を教えてほしいと返した。少し一人で休みたかったのだ。察しがいい彼は頷いて席に残ってくれた。優しいひとだ。


大抵の英霊たちは会場にいるため、いつもより音もなく冷たい空気が流れている。そんな中、コーヒーの匂いが漂ってきた。
職員が飲んでいるのだろうか。いつも大変だな。そんな風に思いながら、コーヒーの匂いをたどる。

「あれ、ビリーさん」
「やあ」

職員かと思えばビリー・ザ・キッドだった。少し小柄な体に明るいくせっ毛と笑顔、だがロビンと同じように掴みどころのない空気を纏っている青年。本人たちも同類に感じているのか、よくカードゲームをするなど共に行動している。湊もそのカードゲームに混ざるものの、結構な確率で負けていた。

「ビリーさん、レース見てなかったんですか?」
「見てたよ。見てたけど、ちょっと休憩しに。そういう君は?ロビンと見てなかったっけ?」
「私もあの熱さにやられたので、ちょっと休もうかと……戻ったらロビンに戦況教えてもらうつもりなので残ってもらいました」
「なるほどね」

ビリーは湊の言葉に頷いてコーヒーを一口飲んだ。少年のような体躯なのにその姿がやけに似合う。湊は何故かどきどきしてしまった。湊の視線に気付いたのか、ビリーがにやり口角を上げた。

「そんなに見たらロビンが妬いちゃうよ」

「っ!し、しませんよ、別に!」

「冗談だよ」

頬を赤らめる湊におかしそうに破願してビリーはカップを置いた。ビリーはこうしてよくロビンと湊の仲をからかう。特にロビンを。

「コーヒーでも飲むかい?って、ああ、でも君は紅茶の方が好きなんだっけ」
「コーヒーも飲みますよ」
「僕もまだ飲むし、新しく淹れようか」
「あ、私やります」
「いいよ。僕がやるから」
「美味しい淹れ方知っているので」

そう胸を叩いて付け加えると、じゃあお願いしようかとビリーが椅子に座った。

まずは何があるのかチェック。資材はかつかつという割にコーヒーだけでなかなかの量がある。どこにリソースを割いているのだとどこぞの王様に怒られそうである。湊は数杯だけで十分だろうと考え、豆よりも粉にすることにした。

それから湊はドリッパー、サーバーなどの抽出器具、カップやソーサー、スプーンなどをお湯を沸かしつつ温める。水分を拭き取ってからペーパーフィルターをカップにセット。ドリッパーを軽く振り、粉の表面を平らにならしておく。コーヒーに少量のお湯をそっと乗せるように注ぎ、粉全体に均一にお湯を含ませてから二十秒ほどそのまま蒸らす。カップの真上から小さなのの字を描くように、お湯を3回に分けて優しく注いでいく。温めていたカップに抽出したコーヒーを淹れれば完成だ。

「どうぞ」

待っていたビリーへ、カップから湯気が立つコーヒーを置いた。ビリーは礼を言ってから一口。

「やっぱり素人の僕が淹れるより美味しいや。紅茶だけじゃなくてコーヒーにも詳しいんだね」
「あー、いや、その、恥ずかしながらエミヤさんの受け売りなんですよね」

湊は目をそらして言う。生前は紅茶ばかり飲んでいたので、コーヒーにはあまり詳しくはない。カルデアに来て初めてきちんとしたおいしいコーヒーの淹れ方を知ったのである。ビリーは納得したように相槌を打つ。そしてまた意地悪く笑った。

「今度こそロビンが本当に妬くよ、湊」
「エミヤさんはクソドンファン野郎なのでそういったことはないんですけど」

可愛い子は皆好きだよとかどんな発言だ、死ね、とさえ思うので、湊としてはエミヤを異性として好意を持つ対象ではない。ロビンが妬くも何もないのだが。本気で否定し顔をしかめる湊にビリーが苦笑する。

「そういう意味じゃないんだけど。まあいいか」

大変だなあ、と誰かを労わる言葉が聞こえた気がする。それに顔をしかめながらも温かいコーヒーを飲む。

「コーヒーも美味しいですね」
「僕もたまには紅茶を飲もうかな」
「そのときは淹れますよ」
「お、それはすごく美味しいだろうね」

そんな風に話してコーヒーを何杯か飲む。ビリーと話しているうちに少し疲れも取れた。湊は飲み終えたカップを片付ける。

「戻るのかい?」
「はい。ビリーさんはどうしますか?一緒に見ません?」

ビリー湊の誘いに少し上を見上げて考えている。そしてにっこりと笑った。いつも顔に貼り付けている、取り繕った笑みとはまた違うもの。マスターにだけではなく自分にも見せてくれるとは。湊は少し目を丸くした。

ビリーと会うと基本的に笑顔であるものの、どこか警戒心を持ったそれだった。彼が一人でいるときに一瞬だけ見かけた切ない横顔が本当の彼のような気がして。そのとき、湊は名前の無い青年のことを思い出した。

「そうしようかな。行こうか」
「あ、はい」

ほんの少しでいいから、もう少しだけでいいから、彼が心の底から笑うことができたらいい。そんなことを思いながら、湊はビリーの後を追った。




ビリーは縞うどんさんに寄ると18歳くらいのつもりらしいですね。もうちょい下かと思っていました。緑茶とは数歳差くらい?何にしろビリーもすごく魅力的ですよね。幕間良かった。あと最終再臨がめっっっっちゃ良いので、まだしてない方は是非してみてあげてください。
どうでもよくはないのですが、緑茶って基本絡みがある英霊が女性の比率半端ないのでビリーやジェロニモさん、セイレムだとサンソンなど増えて本当に良かったです。