カルデアは温度調節されており、暑い寒いなど特別感じることはない。だから今日は冷たいものにしよう、あったかいものにしよう、だとかがない。常に気分で、リクエストによって決まるのである。
今回はそんなリクエストの日だった。
「さっき種火集めに行ってきたのだけど、暑かったの。だから何か冷たいものをちょうだい!」
おやつの時間にはまだ早い時刻。エリザベートは愛らしくむくれながら、本を読む湊へ言った。
「はあ。まあ、いいっちゃいいけど、時間かかるよ?」
「そこは湊の魔術で何とかしなさいよ」
「魔術を何だと思ってんの」
呆れる湊に彼女は駄々をこね始める。
「いいから、食べたいの!」
湊は軽く肩をすくめ、そういえばと疑問を投げかける。
「アイスってショップにないの?」
カルデアの備蓄は微々たるものだが、QPなどを渡せばダ・ヴィンチのショップで様々な者と交換できる。湊もぬいぐるみなどを貰ったことがある。アイスくらいあっても不思議ではない。エリザベートはいやいやと首を振る。
「あるけど、庶民っぽくて嫌!アイドルらしく可愛くて豪勢にしたいのよ!」
これだからお貴族様は。湊の怒りゲージが少し増える。庶民からすればハー○ンダッツで十分贅沢品だというのに。苛立ち始めた湊へエリザベートが付け加える。
「それに、湊は美味しいものを作れるもの」
何の疑いもない瞳を湊に向ける。彼女は素直だ。単純で分かりやすい。少し改心して、表面的には悪い子ではないと言える。彼女が行ってきたことは許されることではないが。
そんなエリザベートから評価され、嬉しくないわけがなかった。すぐには何も返せず、視線をそらしてしまった。
「……全く、そういうこと言われて作らないわけにはいかないじゃん」
わざと大きなため息をこぼす。エリザベートはきらきら目を輝かせ、湊の手を取った。
「さっすが湊!作ってくれると思ってたわ!」
「……まさか嘘じゃないよね、さっきの」
「そんなことないわ。本当よ。友達にそんな嘘つかないもの」
エリザベートと湊は、友達である。月の裏側では一言二言交わしたのみだったが、湊がカルデアへ来て少し経った頃、歌の練習をする彼女に耐え切れず口出ししたのが交流のきっかけだった。彼女からの申し出を何度か受けているうちに、気に入られたのか話しかけられるようになった。
ロビンフッドの話もよくする。恋愛脳である彼女には刺激的で楽しいらしい。「私もそんな風に恋をしてみたいわ」と常々言う。
生前、友達と呼べる者はいなかった。だから余計不思議な気持ちがするし、彼女のことを大事にしたい。少女の血を浴びていても。拷問にかけていても。それでも、湊はエリザベート・バートリーが好きだった。
「エリザも一緒に作ろうよ」
彼女一人で作らせるととんでもない凶器が生まれるが、見張っているなら大丈夫だろう。というか、そんなことはさせない。
エリザベートは大きく頷いた。
厨房に行ってエプロンをつける。エリザベートは可愛らしいフリルのエプロンを身に着け、豊かといえない胸を期待で膨らませているようだった。
「何を作るの?」
「冷たいものを食べたいというワガママエリザのために、レモンシャーベットを作ります」
「いいわね!」
理由としては簡単でかつ盛り付け次第でおしゃれに見えるから。これならばダークマターを作るエリザベートであっても作れる。たぶんきっとおそらく。
レモンを切って汁を絞る。絞って、と頼んだら隣で汁まみれになるじゃないとの文句をつけられたが無視。そこから細かく薄切り。包丁はひやひやして渡せないので湊が切る。ヨーグルト、練乳、牛乳、蜂蜜を混ぜてさらにレモンの皮と汁を加える。冷蔵庫で数時間冷やせば、
「はい、レモンシャーベット完成」
「いい、いいわ〜!」
器に盛りつけてミントを乗せればおしゃれに見える不思議。エリザベートも満足げに拍手している。
「手は汚れるけど、楽しかったわ」
「料理ってそういうもんなんだけど……」
「湊、また作りましょ」
ひんやりまろやかなレモンシャーベットを楽しみながら、エリザベートは無邪気に笑う。湊がカルデアに来てからは精神的に苦労することもあるが、彼女の笑顔を見て和むことも多い。冷たい甘酸っぱさを舌で味わい、湊も笑い返した。
「そうだね」
もっと彼女の笑顔を見れたらいい。
エリザは可愛い。良い子って認識をされたくない、というのがまたいいですね。実際彼女はやらかしてきたことが残酷すぎるのですが……。