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緑の狩人と牛肉のポアレ

今日はレイシフトに参加し、素材集めに関わった。何度か湊は参加しているが、いまだに輝かしい功績を持つ英雄たちと共に戦うことに慣れない。帰ってきたとはいえ、ゆっくりしてもいられないのだった。
夕食を作らねばならないのだ。仕込みなどは参加する前に済ませた。疲れた体に鞭を打ち、厨房に向かった。

「あれ、何してるの?ご飯まだだよ?」

誰かが使う前に終わらせようとやってみれば、ロビンフッドがいた。薄汚れたマントはつけず、完全に武装を解いている。冷蔵庫を開けて何やら吟味しているようだった。

「あー、なんか飲みもん飲みたくてね」
「そう」

適当に掛けていたエプロンを身につけ、仕込んでいたものに手をつける。ロビンフッドは飲みものを注ぎながら尋ねた。

「今日は何を作るんで?」
「今日はちょっと豪華に牛フィレ肉のポアレです」

ふふん、となかなか育ってきた胸をそらした。ロビンフッドは湊の扱いには慣れているもので、おだてるように口笛を鳴らした。

「そりゃうまそうだ」
「随分時間かけたんだから、当然だよ」
「お嬢ってホント料理には凝るな」
「美味しいもの作るんだから、時間と手間は惜しまないの」
「なるほどねえ」

湊は料理が好きだ。料理を好きにさせ、少しだけ自身に勇気を与えてくれた女性が言っていた。食べてくれる人のことを考えると、何でもできるし、手間なんてなんてことないのだと。本当にその通りだと湊は思う。
湊はロビンフッドがうまいと言うことを想像する。それだけで胸がいっぱいになった。

「なんか手伝います?」
「いいの?」

ロビンフッドは軽薄そうな外見とは裏腹に、調理ができる。森で一人暮らしていたことが要因なのだろう。湊はしばし悩んだ後、首を縦に振った。

「じゃ、お願いしようかな」

正直な話、湊は誰かと一緒に作るなんてことは苦手だ。自分のペースを乱されたくない。しかし彼の好意を無駄にもしたくない。


いざ調理を始めると、ロビンフッドは縁の下の力持ち、陰での立役者な性格のためか、湊が指示するまで特に勝手にあれこれしないのでありがたかった。包丁使いも慣れているもので、危なげなく軽やかだ。

「よし、できた」

完璧に盛り付けて、湊はドヤ顔をロビンフッドに向ける。彼は肩をすくめ、湊の頭を撫でた。ロビンフッドの優しい手つきに頬が赤くなる。

「流石ですわ、お嬢。すげえうまそう」
「ロビンが手伝ってくれたから早く終わったよ。ありがと」
「……どういたしまして?」

一瞬目を丸くしたが、すぐに彼は穏やかに笑った。イケメンはずるいな。湊は見惚れたのを誤魔化すように目を背けた。

「食べよ」
「今日はあのドラ娘とかツンケンした真っ黒聖女なんかはいないんで?」

エリザベートとジャンヌ・ダルクオルタのことらしい。湊とロビンフッドは頻繁に彼女たちとも食べるので、いるものだと思っているのだろう。

「今日はいらないみたい」
「そうすか。久々っすね、二人きりで食うの」
「そうだっけ?」

湊がカルデアにやってきたのは昨日のことのように感じられる。けれど、ロビンフッドの傍から少し離れたのはそう昔のことでもない。湊は眉をひそめた。厨房から食堂に移動し、席につく。

「そうですよ。なんかあるたび、竜のお嬢さんだとか黒い聖女だとか、童話の童女だとか桃色狐だとか、そんなん誘いまくってんだからよ」
「そんなに誘った覚えないんだけど……」
「そこだよ」

びし。ロビンフッドが手にしたフォークで湊を指す。顔は険しい。その理由が分からず、湊は首を傾げた。

「おたく、周りの奴ら餌付けしてること気付いてねえだろ」
「餌付けって……そんなつもりないけど」
「無自覚なのがタチ悪ぃな」

餌付け。カルデアに来てもレイシフトに参加しなければ何もすることがないので、聞いてみて厨房に立っていたらあれやこれやと他の英霊たちがやってきただけなのだが。美味しい、と言ってくれる笑顔がもう一度見たくて、声をかけることのできる英霊には何かしら作ったらクッキーでもケーキでも与えてしまうのだ。特に喜んでくれるエリザベートやナーサリーライムにはよくお菓子を贈る。

つまり、それが彼には面白くないらしい。

「ロビンは嫌なの?」

答えが見つからず、湊は彼に悪意なく言った。彼は一瞬言葉に詰まった表情を浮かべ、視線をそらした。少し間を開けて舌打ちをした後湊に向き直る。

「……暗にたまには二人で食べたいって言ってんすけど、オレは」

ロビンフッドはいつも余裕綽々と湊を振り回す。そんな彼の顔が赤い。初めて見たわけではないが、マスターを除くなら彼と一番共に居る湊でさえあまり目にしたことはない。

――――あ、嫉妬、してくれてるんだ。ようやく湊はロビンフッドの言葉の真意に気付いた。あの飄々としてる森の狩人が。目立った外見でも際立った才能もない少女の周りに嫉妬している。ほとんど同性ばかりなのに。常に湊だけが彼の周りに嫉妬していると思っていたのに。性格に難はあるが才色兼備な美女ばかりで不安だったのに。

自然と湊に笑みがこぼれる。ロビンフッドが照れたまま顔をしかめた。

「何笑ってるんだよ」
「え、なんか、嬉しくて」
「は?」

さらに眉間のしわが深くなった。湊はすぐ答えるのを躊躇った。素直に自分の気持ちを言葉にできない。恥ずかしい。しかし、湊は沈黙に耐えられずゆっくりと口を開いた。

「……ロビンが嫉妬してくれるとか、思わなかったから……」
「そりゃするっつーの。あの赤マントとか、黒髭のおっさんとか」
「エミヤさんとヒゲだけはないない」

彼の即答に心が浮き立つ。が、湊は全力で首を横に振った。赤い弓兵はただの料理仲間で、「可愛い子なら誰でもいい」などという女たらし発言からしてありえない。大海賊黒髭はそもそもそういう目では全く見れないし、ただの遊び仲間程度のものである。

「まーとにかくですよ。もうちっと、お嬢はオレに好かれてるってことを自覚しろ」
「あ、は、はい」

もう一度フォークで指され、背筋を伸ばす。湊の返事に満足したのか、ロビンフッドは薄く笑った。

「よし。じゃあ冷めちまうし食うか。いただきます」
「いただきます」

ナイフで切って口に運ぶ。牛肉の柔らかな感触と香ばしいソースが舌と鼻を楽しませる。我ながら美味しい。湊は咀嚼しながら自画自賛する。そして目の前の彼の反応を見守る。

「ん、うまい」

その言葉が聞きたくて、笑顔が見たかった。湊は野に咲く花のように、穏やかに笑った。



ほぼ牛肉関係ない。緑茶とおいしいもの食べたいですね。