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九尾の狐とすずきのソテー

今日は予定がある。と言っても、レイシフトではない。

「本日はよろしくお願いしますね、湊先生」

キャスター・玉藻の前に料理を教えるのである。彼女とはカルデアに来る前に面識がある、ような、ないような。そんな間柄ではあったが、エミヤやネロ、エリザベートなどと絡むうち、共に話すようになっていた。
態度はかなりふざけているが、根は賢しい玉藻の前……タマモ。ロビンフッドとの仲を茶化されることも多いが、相談しやすくもあった。そんな彼女のことを、湊は嫌いではない。ロビンフッドはタマモを見て「狐狩りをしたい」と言うほど嫌いらしいが。


ロビンフッドのためにキッチンに立っていたら目敏く見つけられ、「私にも教えてくださいまし」と懇願された。メル友だという清姫もよくいるが、今回はレイシフトに参加しているため不在だ。

「で、今日は何をお作りに?」

良妻賢母を体現したかのような、楚々とした割烹着姿のタマモが尋ねる。湊は材料を用意しながら答えた。

「今日はすずきのソテーです」
「すずきのソテー」

復唱してはてと首を傾げた。彼女は西洋料理に少し弱い。

「平たく言うと、炒めるってことだよ」
「ほう」

興味深く頷いてはメモしている。湊はそんな彼女を見て、昔の自分と重ねた。わからないことだらけで、メモしては後で調べていたなと。

「って言っても、そんな大変なものじゃないし。ちゃっちゃとやろう」

ネロやエリザベートと違い、タマモや清姫に不安なところはない。湊から新しく教わることなどないのでは、と思うほどである。「いいえ、やはりレパートリーの多さ、応用では敵いません。その技術、盗ませていただきます」とはタマモの弁だ。

「できましたよ」

湊の慣れた手つきや拙い説明を見聞きし、タマモが完成したものを見せる。黒胡椒とソースの香りが混ざり、すぐに食べたくなるほど美味しそうだった。

「やっぱ慣れてると違うねー。楽だわ。エリザとかほんっと大変だもん」
「もうあのドラ娘に教えるのはやめた方が良いのでは?」
「うーん、まあ、断りにくいし……」

エリザベートとは友達と呼べる関係にある。英霊と友達なんておかしな話ではあるが、彼女と話すとき特に気負うことはなかった。生前同い年の友などろくにいなかった湊としては変な気分だ。

タマモは軽くため息をつき、湊に呆れた顔を見せた。

「全く……マスターもですが、貴女も十分変な方ですよ、湊さん」
「え、マスターみたいな主人公属性と一緒にしてほしくないんだけど」
「そもそも、私たちみたいな反英霊などを好きという時点でおかしいのです。マスターもですが」

湊がよく話す英霊。ロビンフッド、エリザベート、オルタ化したジャンヌ・ダルク、エミヤ、ネロ、タマモ、……。思い返せば反英霊に分類されるような者たちばかりだった。
湊は、幼い頃から強大な力を持ち、輝かしい功績を残した英雄が苦手だ。性格に難があろうとなかろうと、僻んで話せそうにないからだ。反英霊と呼ばれる彼らが話せる気安さを持っているかと言われれば、本来そんなことはないのだが。

目を伏せて湊はしばし言葉を選んだ。

「タマモたちの本質は、ただの人間……ま、今は礼装っていう存在だけどさ。そんな私には理解し切ることはできないよ。分かって欲しいとも思ってないかもしれない。でも、英雄って称えられてばかりの人たちよりは好きだな。例え残虐なことをしてもさ」

エリザベートのブラッドバスも全く分からないし、狂ってると思う。己の欲望に忠実なところ(そうでない英霊もいるが)が、湊には理解できない英雄らしい英雄より好きだった。

こんな答えじゃダメかな。困ったように笑う湊を、タマモは見定めるかのように見つめていた。それから目を閉じて、大人の微笑みを漏らした。

「湊さんらしい答えですねえ。そんな風に、捻くれているようでまっすぐだから、あの緑アーチャーさんも折れたのかもしれません」

「そう、なのかなあ」
「ええ。見ていれば分かります」

タマモがあたたかで優しい眼差しを向ける。本当にそう思っているのだと湊には分かった。そっか、と目をそらして返す。

「さあさ、冷めてしまう前に食べてしまいましょう!あと、アレンジがあれば教えてくださいましね?」

先ほどまでの空気がなかったかのように、タマモが明るく手を叩いた。彼女の、場を重くしない気遣いが大人だなと湊は思う。

「そうだね。席について、食べてからにしようか」
「フォークとナイフ、ご用意いたしますね」

玉藻の前。三大妖怪などと言われ、最期は悲惨なものであった反英霊であっても。その本質を知らずとも。少なくとも、湊に笑いかける彼女のことは、好きだった。



キャス狐は可愛いですね……シリアスギャグどっちもやれる良妻賢母。