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薔薇の皇帝とホタテのテリーヌ

湊は料理をするのが好きだ。自分に自信が全くない彼女でも、これだけは簡単に負けるつもりがないと胸を張れる。生前、料理を教えてくれた女性からの特訓の賜物である。

概念礼装という存在になってもそれは変わらない。サーヴァントについてサポートする日であろうがなかろうが、カルデアの厨房に立ち続ける。当然全員分の食事を作るわけではない。自分と数人のサーヴァント用に作るだけだ。

「何にしよう」

湊は一人厨房で考え込んでいた。毎日同じものを作るわけにはいかない。今日は彼女は何を食べたいのか、自分は何を作りたい気分なのか。

「湊ではないか」

可愛らしくも凛々しさを持った声が後ろから振ってくる。振り返らずとも分かったが湊は首だけ回した。

「セイバー……じゃなくて、ネロ」
「うむ。今日も熱心な事よな」

月の裏側で何度も戦ったセイバー。赤と黄金の衣装は胸も臀部も脚も丸出しだが、不思議と彼女なら違和感がないと感じてしまう。

ロビンフッドは彼女をあまり好いていないようだった。湊も表面はともかく、根本的に相容れないと思っていた。皇帝と平民の差はどうあがいても拭えない。しかも以前は敵として接していたため、湊は彼女とどういった距離で接するべきかまだ分からないでいる。

「して、何を作っているのだ?」
「いや、まだ何も……」

だからぎこちない返しをしてしまう。ネロも誰にも好かれると勘違いする楽天家というわけではない。そうか、と言って冷蔵庫を開けた。

「……何か作るの?」
「日々鍛錬するマスターを労わってやろうと思ってな。余が直々に作る算段だ」

あの暴君ネロが。料理を。作る。湊に衝撃が走った。つい持っていた包丁を落としかけてしまった。ネロは湊の挙動にあざといほど首を傾げる。

「何だ、余が調理するのに何かおかしなことがあるのか?」
「いや、まあ、うん……作ったことあるようには見えないし……」
「一度もないな!」

大きな胸を張って言うネロ。湊は感情を隠すことなく頬をひくつかせた。

「だが湊、貴様がいると思ってな。いつもこの時間は仕込みをしているであろう?いつもあの女狐や蛇女に教鞭を振るっている貴様なら、余にもと考えたのだが」

確かに湊はレイシフトしない日、この時間帯は厨房で仕込みをし始めている。覚えている英霊らがいてもおかしくはなかった。だがそれを彼女が知っているとは思いもよらなかった。それに自分に教わりに来るとは。湊は目を丸くした。

「貴様とは敵同士ではあった、記憶があるようなないような気がする、が。だからと言って余は貴様の美点をないがしろにするわけではない」

彼女は薔薇の皇帝を名乗るにふさわしい笑みを浮かべている。


――――そういうところが眩しい。見ていられない。などと、口にできるわけがなく。湊は純粋に皇帝からの賛美を受け取った。

「ありがとう。でも、どうしよう。初心者中の初心者のネロにでも作れそうなものかぁ」
「湊のことだ、何か良い品があるのであろう?」
「過剰な期待をされても困るんだけど……」

腕を組んで小さな頭をひねる。少し考え込んだ後、湊はぽんと手を打った。

「ホタテのテリーヌにしよう」
「てりーぬ?」

ネロが不思議そうに復唱する。湊は頷き、様々な調理器具を収納庫から取り出しながら説明した。

「潰して調味した魚とか肉とか野菜を陶製の器に入れて、天火で蒸し焼きにした料理だよ。冷まして薄く切って、前菜にするの」
「メインではないのか」

不満げに眉をひそめるネロに苦笑する。

「まあ、メインにもなるから。エプロンつけて、やろっか」

適当なエプロンを見つけてネロにつけさせる。彼女から余にふさわしくないなどと文句が出ているが、湊は聞かなかったことにして無視した。湊自身もエプロンを身に着た。

「じゃ、私いろいろ言ってくから、それをやってね」
「うむ。任せよ!」

どや顔するネロに、湊は不安が増した。



それからは大変だった。主に湊が作っていくのだが、悟られないようにするのに苦労したし。用意した食材や調味料以外のものを、ネロが勝手に食糧庫から取って来て入れようとするのも困ったし。今回くらいなら泡立て器を使っていたら、それよりもはるかに重いはずの剣を振り回しているはずなのに疲れたと言うし。これはどうだとアドバイスと言う名の茶々をいれてくるので対処が面倒だったし。

「できた!できたぞ!」
「うん、できたね……ネロも料理、できるね」

キレださなかった私偉くない?湊は出来上がった瞬間、どっと疲れを感じた。

「湊」
「うん?」

重いため息をついて遠い目をしていると、ネロが湊へ声をかけた。

「礼を言うぞ。これは余だけで作ったものではない。貴様と、余との共同制作、というやつだな」

皇帝としての威厳ある笑みではなく、年相応の少女の笑み。まるで友人に向けるようなそれを向けられ、声が出なかった。

湊はエリザベート・バートリーとは違い、ネロ・クラウディウスを友と思えない。為政者と平民の思考は直ることはなく、絶対的差は埋まることがない。


それでも、今だけは。

「そうだね」

同じように笑みを返せることができた。



始まってしまいました。が、もう終わりははっきり決めてあるのですぐ終わると思います。こんな感じでほのぼのです。月の裏側がどうのこうの言ってますが、いつか書く予定です。練ってます。
あ、私は赤王好きです。可愛い。めちゃくちゃ可愛い。
追記・エクステラで料理上手なことが発覚する前に書いたものなので許してください……。