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「#寸止め」のBL小説を読む
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EXTRAアーチャーとダンス
「そういえば、名無しに聞いていなかったわ。このドレス、良いと思わない?」

何人目かのエリザは、自慢げに言い放ち自分の衣装を見せびらかしてきた。
薄青の豪華でふわふとしたドレス、ダイヤで装飾されたティアラ、そして何故か爪先部分から棘が生えたガラスの靴。エリザには申し訳ないが、どこかで見たことのあるような衣装だ。実際、それがモチーフとなっているのだろう。

「……うん、今までのエリザっぽくないけど、逆にそれが新鮮で良いと思う」
「ふふ、そうでしょう。名無しならそう言ってくれると思ったわ!」

『アイドル』ではなく、『プリンセス』に舵をきったその衣装は、エリザに良く似合っていた。名無しが素直に賛美すると、エリザは期待していた言葉をもらって上機嫌に歌い出す。

「そうよね〜、私、何でも似合うから〜」

台詞すら歌に変えるその様はミュージカルだ。この姿のエリザはポップなアイドルソングよりミュージカルにハマっているらしい。名無しはミュージカルには造詣が深くないし、あまりノリも良くないので苦笑するしかなかった。

「エリちゃーん、今いるー?」
「……あっ、マスタ〜、今行くわ〜。じゃあね〜、名無し〜」

やはり歌いながら返事をするエリザへ軽く手を振る。しばらく遠ざかるそのきらびやかなドレスを見つめた。

シンデレラ、というか童話全般、というか童話のプリンセスとやらは苦手なのだ。童話モチーフのものは純粋に可愛いし好きなのに。これは単なる名無しの妬みと僻みである。作者にも物語の彼女らにも何の罪もない。

それに――――。

「お嬢」

完全に姿が見えなくなったところでロビンの声が名無しを現実へと戻す。今回のハロウィンにロビンは周回に駆り出されているのだ。名無しはそのサポートというわけである。

「何突っ立ってんすか?何か探し物でも?」
「ん、いや、何ていえばいいのかな。シンデレラ?のエリザと話してて。アイドルの次はシンデレラでミュージカルかぁって」
「あー、あれ」
「うん。楽しそうってちょっと思った」

唐突にくるりくるりと回ってみる。ロビン以外誰もいないからできることだ。

楽しそう。純粋にそう思う。ダンスはろくにしたことがないし、歌も披露するのは苦手だけど。楽しく生きるのは大事なことだと思う。

くるくる回っていると、ロビンが手を差し出してきた。

「……御手をどうぞ、お姫サマ」

――――そういう意味で言ったわけじゃないけどな。でも青年の瞳は何だか嬉しそうに楽しそうに細められている。
名無しも唇をほころばせて大きな手を取った。

「よろしくお願いね、王子様」

そう、ガラスの靴がなくても素敵な人と出会えたから。



ハロウィン2021ネタです。七人のイケメン枠、ふふっとなりました。
それなりに「名前のないおとぎ話」の内容が入っているのでいつも以上に意味不明かもしれません。「ガラスの靴がなくても踊れる」をタイトルにしたかったのですが。
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