EXTRAアーチャーが欲しいもの
バレンタイン。そんな行事に参加するのはもう何回目だろう。欠点を見つけても合わないところがあっても、それを補う長所や優しさが、あのときくれた言葉が、あのとき感じた幸福が、名前のない青年への好きを構成している。
だから、名無しは今回も頭を悩ませている。
「ねえ、ロビンはどんなの食べたい?もしくは何欲しい?」
「……今年は直球なんだな。珍しい」
「だって、今までとは違うのにしようってなったら色々考えちゃって分からなくなったから……もう聞いた方がいいかなって……」
正直悔しい。ずっとあれこれ手を加えて作ってきたのに。いい加減ケーキは飽きる?そもそも甘いものをあげるのは安直なのでは?物にしても何をあげよう?そう悩み始めたらキリがなくなった。
相談相手はそれなりにいるが、どうせ「リア充失せろ」「貴方がくれるものなら何でも喜びますよ」といった返答しかないことは分かり切っている。
気恥ずかしくて喜んでほしくて本人に尋ねるなどしなかったが、もうここまでくるとその方が早い気がしてきたのだ。
とはいえ、欲が少ない青年のことを考えれば本心で「くれるなら何でもいいっすよ」と答えるだろう。
「そうやって素直に聞いてくるなんて、明日は何か起こりそうだな、こりゃ」
「ふざけないでよ。こっちは真剣なんだから……」
怒りを込めて睨めば、やはり悪戯っぽく笑いながら謝罪される。
「お嬢からくれるなら何でもいいですけどねえ」
「そういうの一番困るんだってば」
「だよな」
宙を見ながらロビンは思案する。
いらないと言われるのが一番嫌だ。ロビンならありそうで困る。行事に乗っかっても感謝や愛を伝えるのは大事なのだ。名無しは言葉にも行動にもするのが未だに下手だから。何が返ってくるのか、不安で胸が締め付けられそうだった。
そんな名無しをよそに、ロビンが思いついたように軽く言った。
「それじゃあ部屋でゆっくり過ごしますか。どうせ当日も騒がしそうだしな」
「……いつもと変わらないじゃん」
「それがいいんだろ」
名無しの言葉に青年は薄く笑った。綺麗な緑の瞳の光に鋭さはなく、穏やかで優しい。名無しはきゅっと唇を結ぶしかなかった。
「いつも通り」がいつまで続くのか分からないから。日常が好きな青年だから、ある意味一番欲しいものなのかもしれなくて。
「分かった」
頷けば、名前のない青年はやはり満足げに目を細めた。
緑茶はあまり物欲ないだろうな……と思った話です。