アタランテと元マスターの彼女
元マスターである少女のことは、ここカルデアでは何故か覚えている。
初めて人を殺して重苦しい表情をしていた第一回戦。それでも互いの夢を叶えるために前を見つめた第二回戦。振る舞ってくれた料理に美味いと言えば純真に笑った第三回戦。ごめんねと謝って諦観と悲哀を込めた瞳で見つめた第四回戦。
そうやって苦悩と抑制がつきまとっていた。だが、本来いないはずのその少女は「概念礼装」として存在していて、月の聖杯戦争では見なかった表情をすることもある。
「ロビン、次当番だって」
「マジか……メンバー誰です?」
「アタランテとエミヤさんとダビデさんとエウリュアレさんと、えーと、子ギル君?アーチャーズかな」
「うお、めんどくせーメンツばっかじゃねーか。サボりてえ」
「サボったらサボったらで後で色々言われそうだけど」
「そうなんだよな。ったく、しょうがねえ」
準備してくると去ったロビンフッドの手を振って見送る。
少女が穏やかに微笑む様にはまだ慣れない。さすがに惚れた男に向ける愛おしげな表情が見れるとは想像もしていなかったのだから。年頃の少女らしく愛らしく、ひたむきで優しい瞳など戦いの最中に浮かべられるわけもない。むしろ、思い合うような相手ができて良かったとすら思う。
「名無し」
声をかければやはりぱっと花が開いたように明るく目を細める。こうして好意を露わにして慕われるのは少しくすぐったいが嬉しい。
「こちらには慣れたか」
「うーん。ちょっとだけ……でも、アタランテもロビンもいるから大丈夫」
「そうか。あいつが妙なことをしてきたら私に言え。すぐに私が射抜く」
ロビンフッドは弓の腕はいいが、軽薄そうなところが不安なのだ。変な男に引っかかってしまったのでは、と心配になるのは元サーヴァントとしておかしくないはずだ。
「大丈夫だよ。皮肉っぽいけど、その……優しいから」
名無しが目を伏せて頬を染める。恋する少女そのものだ。初々しくいじらしい。ますます胸が曇り始めたものの、もっと警戒しろだのやめておけだの強く忠告することもできない。恥ずかしそうに、けれど真剣に夢を口にしたいつかのことを考えれば猶更だった。
――――ごめんね。アタランテ。
そう謝罪し続ける少女がちらつく。また自責の念に駆られるのではないかと。
「そうか。ここでは汝は私のマスターではないが、頼ってくれて構わないからな。力になる」
「ありがとう」
年齢よりも幼い表情につい頬が緩む。世界を救う戦いの場とはいえ、こうしていつかのマスターの笑顔が見れて良かった。
アタランテは優しい眼差しで少女を見つめ、またなと背を向けた。
保護者というほどでもないですが、気にかけてくれたりするといいなという願望です。特に緑茶はぱっと見アタランテが嫌いそうな感じなので。
アタランテと緑茶の会話も書いてみたいです。