鬼灯の冷徹
■鬼灯
金魚草を可愛いか可愛くないかで言ったら全然可愛くない。可愛くない、けど、何かクセになる。死んだ目とかぽっかり空いた口とか鳴き声とか。仕事に忙殺されている自分みたいで何だか親近感が湧いてしまうのだ。
やっぱり飼う(植物なのにこれが正しい気がする)気はないんだけど。
今日もせっかくの休日を使って何故か展覧会に来ている。何してるんだろう、私。癒しとは程遠い植物(植物?)を見に来て何になるんだ。
しかし、本当に鏡を見ているみたいだ。こうしてる間も虚無って感じ。
「金魚草、お好きなんですか」
唐突なバリトンボイスが私の意識を現実に戻した。しかもなんか聞き覚えがある。ゆっくり頭を左へ回転させると驚きで目を剥いた。
「ほ、鬼灯様……?」
そういえば金魚草の審査員になったりしているんだっけ。展覧会なんだからいてもおかしくない。けど、本職はどうしたと問いたい。
呆気に取られている私と違い、彼は至って冷静に言う。多分驚かれ慣れているんだろう。
「その通りですが、あまり気になさらなくて結構ですよ」
「そ、そうですか」
片やただの会社員、片や閻魔様の補佐官。どんなシチュエーションなんだ。ネットの広告にある漫画みたい。
切れ長の目とか高い背とか仕事の出来具合とか。政治家のようなものだし、この人が本物の、という印象でしかないけど。
「もう一度お聞きしますが。金魚草、お好きなんですか?」
「好き、というかクセになるといいますか。こう、目とか虚無って感じで」
「虚無……仰りたいことは分かります」
「鬼灯さ……鬼灯さんは、今日はコンテストの審査員ですか?」
「ええ。年々レベルが上がってきていて選ぶのに苦労します」
レベルとかあるのか。金魚草のことは表面的なことしか知らないのでそうなんですかと相槌を打つしかない。
「よろしければ見に行きますか?予定がなければですが」
容姿端麗な男性、しかも補佐官殿に言われて断る奴がいるだろうか。ここ数年恋愛のれの字もない身。乾いているはずだった休日に潤いが欲しいと願っても罰なんか当たらないだろう。
「……そうですね。せっかくなので」
にこりと微笑む。そういえば笑ったのは久々な気がした。
鬼灯さんはこういうちょっとした出会いみたいなのがいいなあと思い。