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ぬらりひょんの孫


■茨木童子


その女は、よく黒が似合う女だった。羽衣狐は闇そのものと言える女だったが、名無しは闇というよりは夜の似合う女だった。

「名無し」

名を呼べば艶々とした黒髪を揺らして女が振り返る。黒の生地に花や蝶をあしらわれた着物が優美だ。妖とは思えぬ健康的な、けれど白い肌に際立つ赤々しい紅が緩む。

「どうしたの?」
「羽衣狐の奴が呼んでる」
「羽衣狐様が。ありがとう」

微笑みでさえやけに色気がある。だが遊女のように下品でもいやらしくもない。羽衣狐の上に立つ者としての気品とも異なり、落ち着いていて品がある。
名無しを見つめていると、視線に気付いた名無しはやはり色っぽく目を細めた。

「そんなに見つめても何も出ないわよ」
「うるせえ」
「何か言いたいことがあるの?」

濃藍の瞳に己が映っている。刃物の切っ先のように鋭い茨木童子の眼差しにも怯まない。

――――いい女だ。

その顔を歪ませてやりたい。品があって美しく、けれど度胸のある名無しを屈服させたいと思う。快楽でも恐怖でもどちらでもいい。無理矢理組み敷けば微笑と同じように熱っぽく喘ぐのだろうか。刀で斬ったら紅と同じように赤い血が噴き出るのだろうか。
何度も何度も想像した。そのたびにひどく興奮して鎮めるのが大変だった。だが実行に移したことはない。
今もすぐ手を伸ばせば触れられるのに。

口を閉ざす茨木童子に名無しはいたずらに笑う。

「もしかして抱きしめる気だった?貴方、そういう色事できるの?」
「犯されてえのか」

初々しい少女のような邪気の無い表情。唾を呑みこみそうになったが、目をつり上げる方が先だった。
茨木童子の攻撃的な口調、殺気立った眼差しを向けられても名無しの顔が崩れることはない。名無しは首を傾げて唇に指を当ててさらりと言う。

「茨木童子ならいいわよ。強いし」
「あ?」

間も淀みもなくあっさり言うものだから気が抜ける。ますます顔をしかめると名無しが付け加えた。

「でも茨木童子ってやってる間に首絞めてきたりしない?戦ってるときだって相手ねぶるの好きだし」

否定できない。悦楽の表情を浮かべている最中殴って蹴って暴力を振るいたくなる。今まで抱いた女だってそうだ。特に欲情も殺意も抱く女に対してしないなど言い切れるわけがなかった。

「まあ、私も最後に男を食べちゃうからお互い様かもね」

くすくす。今度は温度の無い表情を端整な顔に浮かべる。羽衣狐と同じ、闇の女の笑みだ。
そしてそのまま茨木童子に背を向けた。まっすぐな髪が光を浴びていっそう輝く。

――――犯しに行ってやろうか。

茨木童子は舌打ちした。



茨木童子にいい女だなと思われたいなという。彼は女は抱くけど恋愛とかより征服、支配したいタイプだなと思いますが。

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