いつになったら愛に変わるのだろう
雲居蜜郎は瀬尾梨名無しをどうにも苛つく女だと思っていた。会うたびに罵倒されるか存在を削除されるのだ。口にしたくはないが、彼女の腕は認めていた。何が気に入らないのか。雲居は気づいていないが、彼の態度の問題であった。不器用なのである。
「……げ、雲居」
休日。道具を揃えようと街へ出たら、瀬尾梨に会ってしまった。制服ではない瀬尾梨を見るのは初めてのことで、雲居は変な気分になった。
「何や。己がここに居るとあかん理由でもあるんか」
「そうだね、私の気分が最悪になることくらいかな」
「ホンマ口の減らん女やな」
「どうもすいませんね」
瀬尾梨はもう話すことはないと言わんばかりにそっぽを向いて店内を歩き始めた。雲居も絡むのをやめ、用を済ませる。
しばらくして、会計も終わらせ帰ろうとすると、背伸びする瀬尾梨が見えた。脚立を使っても届かないらしい。ぴょんと軽く跳んでいるが触れられもしない。
瀬尾梨を助ける義理などない。ない、のだが。
ふと幼馴染である空木文吾の言葉を思い出した。
「瀬尾梨ちゃんで遊ぶのもうやめてあげたらどうなん?これじゃ嫌われたままやで、みっちゃん」
雲居は瀬尾梨を好きなわけではない。嫌われても、とういかもう嫌われているだろう。それで構わない。
そのはずだが、
「貸せ」
「え、ちょ、雲居……?」
無理矢理脚立のスペースに片足を乗せ、目当ての物を取ってやった。
「これでええか」
「え、あ、うん」
呆けている瀬尾梨に手渡す。不思議そうに雲居を見ている。こんな表情をした瀬尾梨は初めてかもしれない。
「あの、雲居」
「……何や」
「……あり、がと」
少し頬を朱に染めて礼を言う瀬尾梨に、何とも言えない感情が襲いかかる。距離を詰めた。さらに不可解そうな顔になる。何となく、本当に何となく、その鼻梁にキスをした。
「…………っ!?」
瀬尾梨はさらに顔を赤くし、口を金魚のようにぱくぱくさせて戸惑っている。
何故自分がこんなことをしたのか分からない。ただ、したかったから。
「し、死ねカニ野郎!!!」
文吾の言っていた遊ぶというのは本当かもしれない。瀬尾梨の反応が面白いからだ。蹴りを避け、その場から逃げる。後ろで何か言っているが気にしない。
次に会ったときはどんな反応をするだろう。考えて、口元が少し緩んだ。
カニ先輩は最近険悪だけどのちのちお互い無自覚で好きになってくパターンで妄想してます。
タイトル配布元:感傷的なロゼッタ様