幸せだけ詰め込んで、鍵をかけて
俺だけを見てほしいと、思うときがある。
「京君、どうしたの?」
テレビを見ていた目が俺に向けられる。俺のやましい気持ちを察知したのか分からないが、首を振って誤魔化した。
「別に。何でもない」
「そう?なんか、じーっと見られてた気がするから……自意識過剰か」
ははは、と困ったように笑う。
間違っていない。俺はずっと名無しを見ていた。テレビの内容は、話題を振られたときに答えられる程度には耳にしている。さすがに気付かれたようだ。
だよねえ。名無しは疑いもせずすぐにまたテレビに視線をやった。
俺はそのまま視線を動かさない。食べに行きたいな、と呟く唇は柔らかそうだ。特に香りつきではないはずなのに、おいしそうに思える。噛みつきたい。手は料理をしているのに綺麗だし、俺より小さい。鎖に繋いでおきたい。
――――そうだ。鎖に、繋いでおきたい。名無しはいろんな奴らに好かれている。しかもむかつく奴らばかりだ。俺だけを、見ていてほしいのに。
名無しの手を取った。突然の行動に名無しは驚いている。
「京、君?」
首を傾げる。きっと名無しは知らないんだろう。俺がこんな、仄暗い感情を君に抱いていることを。
「ねえ」
手を握る。相変わらずきょとんとしている。マスクを取った。
「俺だけ、見てよ」
手のひらへ口づける。甘美な味。名無しは変な声を出したけど、それすら愛おしいと思ってしまう。
「け、京君?」
「お願いだから、ねえ」
その体を抱きしめた。名無しを困らせていることは分かり切っている。それでも口にせずにはいられない。
戸惑う彼女を抱きしめる力を強くする。苦しいよ、どうしたの、京君。赤ん坊でもあやすように背中をさすられる。
「大丈夫だってば。私が好きなのは、京君だよ」
そんな風に優しく言われたって満足できやしない。俺はなんて我儘な奴なんだろう。このまま閉じ込めてやりたい、俺だけを頼るようにしたい、俺なしじゃ生きられないようにしたい、だなんて。
これじゃ、あの女が俺にやったことと変わらないじゃないか。
とても病んでるくさいですね。すみません。懇願、と聞いてこんなイメージしか浮かびませんでした。
幸せ=ヒロインのことです。
タイトル配布元:たとえば僕が様