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「#幼馴染」のBL小説を読む
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愛を囁くショコラティエ


二月十四日。バレンタインデー。世界だと男が女へ花などを手渡すことになっている。ただし日本は女がチョコレートを手渡す側だ。
生徒会四天王猿投山渦の恋人、瀬尾梨名無しもチョコレートを使って何か作ろうと奮闘していた。

はっきり言うと名無しは料理が苦手だ。まるっきりできないとは言わないが、華麗な包丁捌きを披露できるわけでもない。お菓子作りだろうと同じことだった。

「量間違ったらダメだって聞くし…どうしよう」

普段立つことのないキッチンでうなる。少し離れた場所では使用人が心配そうに、あるいは微笑ましく見守っていた。名無し自身色恋はからっきしだったため、よっぽど気になっているのだろうと思っている。

「ブラウニー?なら簡単だし、それでいいか」

本屋で買ってきたお菓子作りの本をめくって確認する。盛り付けなんかもない。一人で満足し、早速適当に買ってきてもらった材料に手をつけた。

「先輩、喜んでくれるかな」

名無しは調理中、ずっとそればかりを考えていた。



そして翌日。丁寧にラッピングしたブラウニーを手に取って学園に向かった。朝一に会えると思ったが、猿投山はいなかった。昼休みにしようと教室へ進む。
例え周囲が浮かれていようと、空気がピンクに染まろうと、授業は普段通り進む。短い休み時間中には黄色い声がときおり耳障りなほど聞こえる。その中には猿投山の名前もあり、名無しは心の中で黒い渦が発生していた。

昼休みになっても猿投山は現れなかった。生徒会室まで行く勇気が未だにない名無しには直に出向いて手渡すこともできなかった。

「どうしよう」

ついに放課後。名無しは一人屋上で包んだブラウニーを見つめながら呟く。黄色い声は耳に入っても猿投山本人は一度も見かけなかった。いきすぎた生徒に粛清する蟇郡を何度か見たくらいだ。

陽が簡単に傾く時期。名無しは体育座りをして佇む。このまま会えなかったら、手渡せなかったらどうしよう。今日じゃないとあまり意味ないし。昨日と同じようにうなっているときだった。


「名無し!!」


「は、はい!?」

突然自分の名を呼ばれ、名無しの声が裏返った。振り向けば朝からずっと探していた好きな男、猿投山だった。名無しには少々苛ついているように見える。

「なんで生徒会室来ねえんだよ、お前はっ!」

「え?」

「メールも来ねえし電話も出ねえし!何だよ!」

「え、え?」

名無しには何故怒られているのか全く理解できていなかった。ただ身を縮めながらも呆けるだけだ。
メール?電話?名無しが慌てて座ったまま携帯電話を見つけ出そうとする。ポケットを探る。ない。鞄を漁る。ない。血の気が引いていった。名無しは仁王立ちする猿投山を向いて様子を伺う。

しばらくして、深いため息が聞こえた。

「まあそんなとこだろうとは思ってたけどな」

そう言って猿投山は名無しに近寄り、腰を落としあぐらをかく。

「で、なんか渡すもんあるんじゃないか?」

猿投山は左手を出して意地悪く笑った。猿投山の視線はすでにブラウニーの袋へ注がれている。

「……見映えはよくないですけど。どうぞ」

「サンキュ」

猿投山は名無しの手から袋を受け取り口の端を上げた。
目は見えていないが、きっと猿投山には名無しの顔が熱くなってきたこと、心臓がうるさいこと、視線を一定にしていないこと。すべて知られているのだろう。そう考えて名無しは体操座りに直した脚へ、隠すように顔を埋めた。

がさがさ開ける音がした後、猿投山のうまい、が聞こえた。それだけで名無しの心の中にあった黒い渦が消えていく。


今日、名無しが作ってきたのはそれだけではなかった。

「渦先輩」

「ふぁんだよ」

立ち上がった名無しに猿投山は噛みながら尋ねる。


「先輩に、歌作ってきたんです。聴いて、くれますか?」


恥ずかしくて声が震える。名無しは、自分が得意なものといえば歌しか思い浮かばなかったのだ。一応伝統にのっとってお菓子も作ってはみたものの、やはりこちらの方が性分に合う。

そんなへ名無し、以前と同じように猿投山は言った。


「名無し、歌えよ。俺のために」


「――――はい」

息を吸う。そして、猿投山へありったけの愛をこめた歌を響かせた。






今回は二位の猿投山さんでした。囁くどころか思いっきり歌っちゃってますが。
目縫った後の猿投山さんっぽくないんですけど…許して下さい。もっと彼はかっこいいんですけどね。
地味に最初に書いた猿投山さん夢がかぶってたりかぶってなかったり。あれ、その前にクリスマスも……あれ。
投票してくださった方々ありがとうございました!短くて申し訳ないです。
バレンタイン爆発しろ!!


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