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好きだから知りたいのです


クリスマス。聖夜の日。イブは恋人たちの日。
当然名無しも恋人と過ごす。というか、無理矢理約束を取り付けられたのだが。

過ごすこと自体に関して嫌だとそういうわけではない。ただ素直に誘われて喜べないだけだ。よく愛想をつかさないと思うが、白澤は長い間生きているから特に気にしていないのかもしれない。

名無しは去年友達と過ごしていたのに、今年は白澤となんて変な気分だった。一応白澤とも過ごしていたが恋人としてではなかったからだ。

「ここおいしいでしょ」

昼から白澤と出かけている。まずはおいしい店を探したとのことで、白澤についていく。名無しは天国には散歩に行くか極楽満月に行くくらいしかなかったので、知り尽くした白澤に素直に感動した。

「すごくおいしいです」

香ばしい鶏肉を頬張る。そんな名無しに白澤は満足そうににこにこ笑っている。水を口に運んでから名無しへ言った。

「でも僕は名無しちゃんの料理のが好きだよ」

「……お店で言うことじゃないでしょう」

失礼なことを口にする白澤へ眉間に皺を寄せる。言葉に反して名無しは嬉しかった。隠れて白澤がおいしいと言ったものを調べているのは秘密だ。全てに言うのであまり意味がはないのだが。
名無しの反応を見て分かっているのか白澤は笑ったままだ。それが何だか悔しい。

「次どこ行きたい?」

「どこ…って言われましても。私あまり天国出歩かないんで分かりませんよ」

「だって僕が連れて行っても名無しちゃんが楽しくないと意味ないでしょ?」

そこまで考えてくれているのか。名無しは驚いた。前まで軽薄な印象しかなかった白澤が深く名無しのことを思っていることを改めて認識する。気恥ずかしくて名無しはそっぽを向いた。

「別に…どこでもいいです。さっきも言った通り分からないんで」

「そ?なら行こう」

「え、でもお金」

「僕が払ってあるから大丈夫だって」

会計はいつの間にか払われていた。申し訳なさそうに俯く。白澤を見れば「お金なんて気にしなくていいよ」と名無しへ目を向ける。白澤は男には優しさなど欠片も見せないが、女、特に名無しにはそんな心配をさせないよう気を配っている。名無しは嬉しいような嫉妬してしまうような、複雑な気持ちだ。

「地獄もすごかったですけど、天国もすごいんですねー」

白澤曰く、最近できたばかりというショッピングモールへ着いた。白澤の後ろをついていきながら、名無しは輝くイルミネーションや開店したばかりの店に目移りしている。

「まーね。あ、あそこ名無しちゃん好きそう」

「どこですか?」

「あの白い店」

白澤が指差した場所を見る。雑貨屋のようだ。雑貨や文房具が好きな名無しには見るだけで楽しい場所。名無しは少し興奮してきた。

「白澤さん、行ってもいいですか?」

そわそわして尋ねる。嫌な顔をせず白澤は答えた。

「もちろん。そのために言ったんだからね」

中に入ると白澤や名無しと同じようなカップルがちらほらいる。大抵は女の買い物に男が飽きている状態だが、白澤は違った。

「名無しちゃんこういうの好きでしょ」

「好きです!よく分かりますね」

白澤から渡されたパッチワークの柄入りの瓶はまさに名無し好みで、ついはしゃいでしまう。名無しの好みを把握している白澤へ言う。

「そりゃああれだけ入って名無しちゃんの私物見てたらねー。大体分かるよ」

「……」

にこにこ人好きのする笑みを浮かべて言う白澤。名無しは白澤の好みなどよく分からない。まず白澤の部屋にあがることがないのだった。

――――白澤さんは私のことを知ろうとしてくれているのに、すごく失礼だな。私。名無しはそんな自己嫌悪に陥り、目を伏せる。

名無しが身にまとう空気が変わったのを察知して白澤が言う。

「どうしたの?人多くて気分悪くなっちゃった?ごめん。人ごみ嫌いだもんね、名無しちゃん」

違う、違うんです。本当に申し訳なさそうに謝る白澤を見てさらに胸が痛くなる。ただ名無し自身が勝手で、思った以上に白澤を知ろうとしていないだけなのを痛感しているだけだ。

黙りこんだ名無しに困った白澤は手を取った。

「名無しちゃん、家帰る?」

帰りたくなったわけではない。名無しは慌てて首を振った。

「違うんです、ただ…」

「ただ?」

白澤が名無しをじっと見つめてくる。何でも見透かしそうな目だ。吸いこまれそうなほど黒い。この目を前にしては言いたくないことも口にしてしまう。今回は意図的ではないはずだが、ずるい、名無しとは思った。

「ただ…白澤さんの好みなんて知らないな、って思っただけです」

名無しは恥ずかしくて握られて手を離す。呆ける白澤に背を向けた。少しして白澤が声を上げて笑った。

「ちょ、なんですか!ほんとに!」

「あはは、ごめんごめん。嬉しくてさ」

眉を吊り上げる名無しへ白澤が言う。そのまま離された手をもう一度繋いで店を出た。

「じゃ、僕の好きなもの教えてあげるよ。行こうか」

やっぱり白澤さんはずるい、そう名無しは思う。すぐに嫌な思いをなくしてしまうのだから。






四位の白澤でした。クリスマス後にあげる挙句クリスマスでなくても通じるネタとかいう。別ジャンルのネタと被ってましたが許して下さい。
白澤はレディファーストってことでどこまでも優しいイメージです。こいつ誰だ感が拭えないですが!
投票してくださった方々ありがとうございました!短くて申し訳ないです。
クリスマス爆発しろ!


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