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今日だから特別な幸せを


クリスマス。聖夜の日。イブは恋人たちの日。
当然名無しも恋人と過ごす。とはいえ、デートなどではなくやることは普段とちっとも変わらないのだが。

放課後、名無しは雲居の仕事の手伝いのために街に出ている。周りは家族連れとカップルだというのにこの温度差はいったい。名無しは食材を持ちながら疑問に思う。
付き合う以前からこんな浮ついたイベントに飛びつくような人物ではないことは知っている。それに「好き」や「愛してる」などとはあまり口にしない。その分行動と態度で示してくれているので、好きでいてくれるのだと安心する。

「蜜郎先輩」

「なんや」

「今日はどんな人ですか?」

クリスマスなんて時期に雲居の料理を食べて精をつけたいという客はどんな人物か気になったのだ。

そこで雲居は眠そうにあくびを噛み殺し、ようやく名無しへ顔を向ける。

「どっかの芸能人や」

芸能人と聞いて名無しはあぁと声を上げた。クリスマスだろうが仕事がある彼ら。なるほどと納得して再び口を閉じた。



いつも通り雲居は黄色い声を浴びせられ、名無しは嫉妬の視線を注がれながら仕事を終えた。
依頼人はどこかで見た覚えのある芸能人だった。テレビで見たままの礼儀正しい男性で、「クリスマスなのにすみません」と言われ、名無しは先ほどどこの誰だと思っていたことを恥じた。雲居はというと特に気にしていないようだった。

「今日はあの人だけなんですか?」

「そうや」

いつもなら何人かまとめて作るのに珍しい。じゃあこれからどこか行ったりするのかな。名無しはほんの少しだけ期待してみる。が、すぐにないと打ち消した。

食専の寮へ帰るものだと思っていた名無しは、別の方向へ歩きだした雲居を不思議に見た。

「どうしたんですか?何か欲しいものとかあるんですか?」

ああそうやと頷くのかと思いきや、名無しには予想外の答えが返ってきた。


「今日はクリスマスやろ。どっか寄ったる」


「えっ」

口から驚きの声が漏れた。そんな名無しへ雲居は不機嫌さをさらに露にして言う。

「なんや、名無しは行く気ないんか?」

「いえ!行きたいです、是非!」

頭を振ってやる気をなくす雲居を引き止める。腕を掴んで笑う名無しに、鼻を鳴らし雲居は再び前を向いて歩き出した。

まさかクリスマスだからとどこか連れてくれるとは夢にも思わなかった。名無しは鼻歌でも歌いそうになるのを押さえるのに必死だ。
今のところ目的もなく進んでいるだけだが、それでも名無しは嬉しくてたまらない。デートらしいデートなど、名無しがそう数えていいとしているものは数回なのだから。

「先輩、イルミネーション綺麗ですね」

「まあ、悪うないな」

雲居が足を止めたので名無しも止まる。目の前には巨大なクリスマスツリーとイルミネーション。賛同してくれた雲居へ名無しは笑う。それから適当な場所に座り込んだ雲居の隣に腰下ろす。

会話がなくなってしまい、名無しはどうするかと頭をひねり始める。名無し自身口数が多いわけでもないので困らないが、せっかくのデートなのだからもっと話したい。
そんなことを考えていると雲居がを呼んだ。

「名無し」

「は、はい」

左隣に座る雲居を見る。雲居はクリスマスツリーへ視線を向けたままだ。横顔もいつも通り。だが、名無しには少しだけ寂しそうに思えた。


「お前は後悔しとらんか」


何をと一瞬訊きそうになったが引っ込めた。自分を付き合って後悔していないか。そう言っているのだ。

自分の弱みなどにも見せない雲居。熱くなるときは料理くらいなものだ。そんな雲居でも不安なのかもしれない。に嫌われていないか、不満だらけなのではないか。名無しにはそう読み取れた。


実際名無しが思い描いていた恋人というものには程遠く、恋人とはこうなのかと首を傾げるばかりだ。それでも文句を言わず雲居の仕事の手伝いをするのは、やはり好きだからに他ならない。

いいえ。名無しは真っ直ぐ雲居を見つめて言う。


「蜜郎先輩の傍にいられるだけで私は満足ですから。後悔も何もありません。ただ、先輩こそ私で後悔してないかと心配しているだけです」


もっと美人の方がよかったんじゃないのかな。もっと器量がいい人の方がよかったんじゃないのかな。もっと、を挙げればきりがないくらいだ。それでも雲居は名無しを選んだ。それだけで名無しはよかった。

「……そうか」

雲居の口角がわずかに上がる。他人には分からないだろうが、それは優しい笑みで。一息ついたようなそれに名無しの胸が高鳴る。目の前にいる男はやはり名無しにはもったいないくらい素敵な人なのだと再確認させられた。

「行くで、名無し」

雲居は立ち上がって名無しの手を掴んだ。大きい手が名無しの手を包み、冷気を抑え込む。人前で手を繋ぐという行為もしたことがない。今日の雲居はいつもと違う。クリスマスだからだろうか。
プレゼントがなくても、豪華な料理がなくても。名無しは心が幸せだった。

「はい、蜜郎先輩」

雲居の温もりを感じながら、名無しは微笑んだ。








三位のカニ先輩でした。カニ先輩が三位だということをすっかり忘れて先にソニックを上げてしまいました…。
クリスマスだから特別に不安を漏らしてもらいました。たまにはいいですよね。
投票してくださった方々ありがとうございました!短くて申し訳ないです。
クリスマス爆発しろ!


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