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聖夜に響く歌声は


クリスマス。聖夜の日。イブは恋人たちの日。
当然恋人がいる猿投山はともに過ごす。なんてことはない。運動部統括委員長の座にいる猿投山はクリスマスでも忙しいのだ。

だから名無しには少なくとも夕方はいれないと言ってある。夜は一緒にいられるはずと付け加えたものの、名無しは信用していないようだった。喜怒哀楽のあまりない名無しの顔に、そのときは影が差しているような気がした。

それを思い出し、さらにやる気は削がれ罪悪感が増す。猿投山は歩きながらはあ、と重いため息をついた。
早く終わらせなければ。なんだかんだ名無しが期待しているはずだ。




予想に反し、仕事は全く進まなかった。既に空は暗く、息は白い。猿投山は二ツ星階級層が暮らす道を一人進む。傍には家族連れやカップルが見える。イルミネーションが必要以上に明るく、疲れ目にはきつかった。

名無しの家へ急ぐ。二ツ星のくせに一ツ星の住宅のような、名無しの住むマンションへ着いた。幸いまだ寝ていないようだ。合鍵を使って中に入る。中だというのにひんやりとした空気が肌に当たる。

「おい、名無し?」

何の返事もない。猿投山は首を傾げてリビングに向かう。すぐに座って空を見つめる名無しを発見した。

「何してんだよ」

「……あ、渦先輩。お疲れ様です」

猿投山に気づいた名無しは慌てて頭を下げる。

猿投山はテーブルを見た。料理が盛られた皿も豪華なケーキもない。食べ終わった後かとも考えたが、この様子だと帰ってから何も口にしていなさそうだ。既に十時だというのに。

むしろ都合がいいと猿投山は考え直し、頭を撫でて声をかけた。

「名無し」

「はい」

「どっか行くか」

「え、でも、もう…」

「いいから行くぞ」

不思議そうな名無しを無視して猿投山は家を出た。

遅い時間帯だが外にはまだまばらに人がいる。名無しは隣で歩く猿投山をちらちら見ていた。あえて何も答えず、さっさと歩き出す。

「あの、先輩、ちょっと待ってください」

「ん?どうした…」

無意識に急いでいたらしく、名無しとの歩幅を考慮せずに歩いていた。走って追いついた名無しは少し息切れしている。そんな名無しを見て猿投山は声をあげて笑った。

「名無し、お前体力ねえなー。少しは運動しろ」

「先輩ひどいです!私はもともと体力ないんですよ」

「そういうレベルじゃねーだろ、これ」

笑ってはいるが馬鹿にはしていない。どうせ私はといじけ始めた名無しを止めるために、猿投山は名無しの手を握った。

「う、渦先輩?」

「お前おせえし、手繋いでいくか。さみぃし」

ぐいっと引っ張って無理矢理隣に並ばせる。名無しの頬が赤いのは寒さか、恥ずかしいさなのか。猿投山には分からない。ただポケットに入れていたときよりも温かかった。


しばらくそのまま二人で歩を進める。ある建物の中に入り、エレベーターで最上階まで上っていく。

「何するんですか?」

「そうだな。目をつぶってれば分かる」

そう得意げに言う。名無しはまた不思議そうに顔をしかめた。それでも大人しく目をつむる。

「離さないでくださいね」

「誰がそんなことするかよ」

最上階に着いた。景色が見えるようにガラス張りにされたそこは誰もいない。ほの暗い電気がついている程度で、営業しているのかさえ分からない。猿投山は名無しと手を握ったまま、ガラスへ近づく。

「もういいぜ。見てみろよ」

猿投山の言葉に、ゆっくりと名無しの目が開かれる。身を乗り出して眼下の光景を目に映す。

「わぁ…」

名無しと猿投山には、高層から見える様々な光が目に焼きついた。赤、桃色、橙、黄色、青、水色、黄緑、緑、紫、紺…。一ツ星だけでなく、無星が住むスラム街も今日は色鮮やかに見える。

イルミネーションと同じくらい目を輝かせて名無しが感嘆の息を漏らした。ガラスに手を当てて下を見つめる。それを見て猿投山が微笑んだ。あの犬牟田に頼んで調べてもらった甲斐があったと、名無しの笑みを見て思う。

「すごく素敵です、先輩。景色がプレゼントなんて」

「あ?そんなわけねーだろうが」

「え?違うんですか?」

きょとんとした顔で猿投山を見る名無し。肩をすくめて言った。

「それはまた後で渡してやるから。せっかちだな、お前」

「ち、違いますよ」

否定して名無しは眉間に皺を寄せた。からから笑って猿投山はエレベーターへ戻ろうとする。

「名無し、お前何も食ってねえだろ。行こうぜ」

「はい」

無言で名無しの小さな手を繋ぐ。名無しは一瞬目を丸くしたが、すぐに照れくさそうに俯いた。可愛いなこいつ。猿投山は頬がゆるみそうになるのを押さえる。

外に出た途端、名無しが静かに歌い出す。聞いたことがない曲だった。聖歌かと勝手に推測してみる。蛇崩と違い、音楽に疎い猿投山が言えるのは、名無しの歌声が美しいことだけだ。
この歌声を来年も聴きたい。そう思い、握る力を強くした。






堂々一位の猿投山さんでした。四天王なので楽しく過ごせるとかなさそうと思い。でも猿投山さんはサプライズくらい用意してくれる!という期待も込めて。
投票してくださった方々ありがとうございました!短くて申し訳ないです。
クリスマス爆発しろ!


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