vos mains chaudes
「京君、手伝ってくれてありがとう」
「ん」
放課後、私はまた先生に捕まって手伝わされた。そのとき京君と一緒だったので、手伝ってくれたのだ。ホントに京君には助けてもらってばかりで頭が上がらない。
っていうか命の恩人でもあるんだよね…京君の家に足向けて寝れねーわマジ。私京君に感謝が足りな過ぎる。
教室に荷物を置きっぱなしだったから、二人でエレベーターに乗って教室に向かっている。着くまで話していたそのとき、急にエレベーターが止まった。
「あれ、まだ着いてないよね?」
「故障したのかもね」
「えっ」
京君の言葉に顔が強張るのが分かった。いやでもドラマじゃないんだし、大丈夫、うん。京君も同じことを考えていたのか、非常用ボタンを押した。
「……何も反応しないね」
「……マジで?」
何この絶望的シチュエーション。どこの二時間半スペシャル刑事ドラマだよ。この学校には「体は子供、頭脳は大人!」も「じっちゃんの名にかけて!」も謎を喰うドS魔人もいねーだろ。悪食ドS悪魔はいるけど。
えっでもこれマジでやばくね?テレビでエレベーターのロープが切れて落下とかたまに聞くんだけど。そんなことはないと思いつつ不安が襲いかかってくる。
「名無し」
「はっはい!」
色々考えていたら急に京君に声をかけられて変な声が出た。と同時に、右手をぎゅっと握られる。……ん?
「けけけ、京君?」
「怖いんでしょ」
おっふぅ見抜かれとる。
「そ、そんなことないし」
「俺に嘘が通用すると思ってるの」
ですよねー。
でも男子と手を繋ぐとかオタッキーな私が経験してるわけもなく。ものすごく気まずい。っていうかなんで手繋いでるの京君。
「子供じゃないんだから大丈夫だよ」
「ふぅん。怖そうなのに?」
「うぐっ。ってか、私多汗症みたいなもんで手汗すごいし」
「別に気にしない」
君が気にしなくても私が恥ずかしいんだよ馬鹿ヤロー。つーか何なのこのイケメン。手慣れてんだろこれ。くそ、恋愛レベル1舐めてんじゃねっつーの。
でも、不安はどこかに消え失せてしまっていた。伝わる手の温度は低めなのに、安心した。
三十分ほどたってもまだ動かない。いい加減立ってるのも疲れたのでエレベーターの床に座り込む。もちろん手は繋いだまま。隙を見て離そうとするけどまぁ無理ですよねっていう。本気で手汗やばいんだけど。
「このままどうなるんだろうね」
「まあ今色々やってるんだろうけど…システム修理とかね。でもこのまま」
「このまま?」
「動かなくても、落ちても、名無しと最期いれたからいい」
「………え?」
えっちょっと待って何何何何何、告白っぽいことされ、え、どういうこと、え?最期いれたらいいって、それって私と最期会えてよかったみたいな、え?え?
京君の告白まがいなセリフに私の思考はオーバーヒートしている。京君は何も言わない。お得意のなーんちゃって、すら。冗談じゃ、ない、の?
京君がこちらを向く。鋭い視線が私を射抜く。そして一気に近づく距離。え、ちょ、っと、何これ?どんどん縮んでいく距離に、私はぎゅっと目をつむった。よく分からないけど、そうした方がいいと思った。
そこで突然動き出した。一気に上まで上がっていく。チン、という無機質な音とともに開かれるドア。
「あ、立花君と#name3#さ……」
「も、守屋君…」
ずっと待っていたのだろう、守屋君が笑顔で言う。でもすぐに手を結んだ私たちを見て顔を真っ赤にさせた。
「ごごごごごめんねっ、邪魔して!」
「守屋君ちが、あああああああ」
誤解されたああああああ!そんなんちゃうねん!!立ちあがって守屋君を追いかけようとするけど、京君がそれを阻止する。
「教室、行くんでしょ」
「え、あ、う、ん」
「……名無し、顔赤いよ」
誰のせいだと思ってんだ畜生!イケメン顔焼けただれろ!!そんなことは言わず、足を蹴っておいた。
「…ありがと、京君」
それでもお礼を言うのを忘れずに。隣の彼はただ黙っていた。
藤咲様へ日頃の感謝と愛をこめて。もっと攻めさせようと思ったのですがやめました。リクエスト頂いたとき密室っふーい!!とか興奮したんですけど。IFでリベンジできたらいいな、な、んて…すみません…。
タイトルは仏語で「あなたの温かな手」です。
お持ち帰りと苦情と文句は藤咲様のみ受け付けます。
本当にありがとうございました!