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「#幼馴染」のBL小説を読む
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あの日からずっと私は東条先輩を避けてる。教室に来たら即座に別のドアから出て行ったし、視界に入った途端逃げた。だって好きじゃないくせに『好き』と言う先輩を見るのが嫌だから。
言うたびに私のこと嘲笑ってたんでしょ?あぁもう、人間不信になりそうだ。


今日で避けて四日目。明日乗り切れば二日は東条先輩に会わなくて済む。図書館で課題をやりながら、安堵のため息をついた。家じゃ絶対できないやつなんだよ、これ。よし、ここの問題解いたら帰ろう。そんなときだった。


「よ、名無し。頑張ってんなあ」


「……東条先輩……」

なんで来るの。これ、もう来ない流れだったじゃん。油断するなってことなの?向かい側から覗き込むようにして驚く私を見つめている。どこか怒りを含んだ目。なんでそんなに怒ってるの?意味わかんない。


「お前、俺のこと避けてるだろ」


そして何でこうすぐに核心を突く質問をするのかな。私は目を逸らして誤魔化す。

「先輩の気のせいじゃないですか?タイミング悪かったんですよ、きっと」

「嘘だろ」

すぐに否定されて心臓が跳ね上がる。

「俺にはぜーんぶ、“視”えてるぜ」

物の真贋が分かる先輩は、言葉の真偽も分かるらしい。何その技術。今はいらない。

「なぁ、何でだよ」

周囲には誰もいない。先輩の言葉が静寂に包まれた空間にはよく響いた。私の、心にも。
支線を逸らしたまま口をつぐむ私に痺れを切らした先輩が続ける。

「俺、名無しに何かしたか?」

――――分かってるくせに。自分でしてるくせに。本当、ムカつく。

「……でください」

「あ?」


「嫌いなら、好きなんていわないでください」


「……え?」

乱暴に立ち上がって無理矢理エナメルに勉強道具を突っ込み、肩にかけて走り出した。

「っおい、名無し!」

先輩の引き止める声も司書さんの注意する声も、無視して出口まで駆け抜ける。歯を食いしばって目から何かが出るのをこらえた。人気の少ない方へ向きを変える。運動なんか普段しない私だから体力なんてあるわけない。すぐにスピードは落ちてくる。

「名無し!」

追い付かれた。色々限界だった私は足を止めた。

「おい、何だよさっきの…」

その言葉を合図に、ついに口から思いがこぼれてく。

「先輩、私のこと嫌いなんですよね」

「は?まだんなこと…」

「タイプでもないくせに、好きなんて言うんですか」

一目惚れだとか私は信じない。それなんて二次元よ。あるわけないじゃん。好きでもないタイプの女に惚れてどうの、って。そんなのありえない。

「あー…あれ聞いたのか、お前」

振り返って涙目の私と正反対に、東条先輩は合点がいったように呟く。そんなことか、と拍子抜けしたような物言い。

「そこしか聞いてねーだろ」

「そう、ですけど」

そこで頭をかいてから、先輩は私を抱きしめた。

「ちょっ、と」


「名無し。好きだ」


好き。シンプルでストレートな言葉。いつも言われている単語のはずなのに、今日はやけに重くて。心に深く落ちていく。顔に熱がたまる。こんなに思いのこもった『好き』は生まれて初めてで。すぐに声が出なかった。

でも、私は可愛くないから。

「こんな…こんな、無愛想で、冷めてて、オタクで、可愛くも美人でもなくて、スタイルもよくない私の、どこに好きになる要素があるっていうんですか」

卑屈な私に東条先輩はなんてことないように答える。

「意外とノリがいいとこ、さりげに優しいとこ、星南といるときの笑顔、俺に対しての態度、歌ってるときの顔、あと」

「もういい、もういいですっ!」

さらさらと出てくるもんだから聞いているこっちが恥ずかしくなってくる。多分、いや絶対私耳まで赤い。

「あぁ、そういう照れ顔とか」

「いいですってば…」

「ま、んなもんだ。俺だってお前みてーなのこんな好きになるとか考えてもねーよ。人生、そういうもんじゃねーの?」

そんな軽く言われても、私には分からない。黙り続ける私に一拍置いて尋ねる。

「で、返事は?」

……きっとこの人はいつものようににやにや笑ってるんだろう。

「ここまで来て嫌いとか言うんじゃねーぞ」

しかも私の思考も読まれてるらしい。ここまで墓穴掘っといて逃げられる道なんか残されてるわけがない。私は諦めて口を開いた。


「――――私も、東条先輩のことが、好き、です」


言った瞬間、顔を上げられてキスされた。初めてのキスは、よく分からない味だった。

「もう逃げんなよ、名無し」

その目は力強くて、離せない。強く抱きしめる先輩の白衣を握りながら言う。

「逃がしてくれるんですか?」

「誰がさせるか」

歯を見せて笑う先輩を不覚にもかっこいいと思ってしまった私は、どうやらこの人に本当に惚れてしまっているらしい。







翌日。食専に来たら、東条先輩が下駄箱で待ってた。

「よ、名無し」

「…早いんですね、東条先輩」

「付き合ってんだからウラジって呼べよ」

「ちょっ、そんなこと大声で言わないでくださいよ!」

「いいだろ、どうせすぐバレんだし」

「そういうんじゃなくて!」

「あー、はいはい。途中まで一緒に行こうぜ、名無し」

「人の話を聞きましょうかイソギンチャク野郎」

でも嫌じゃないと思ってる私がいることに、驚きはしなかった。



……好きですよ、『ウラジ』先輩。今は言ってやらないけど、ね。




終わっ、た…!おそらく人生初の完結物なのではないでしょうか。え、ってことはまさかのイソギンチャク夢が初?マジでか…。一ヶ月もたってない新キャラで初完結ておま…。まあ無理矢理に終わらせた感が半端じゃないですが。5話だししょうがない。
4話はもう少し切なさを出せたらよかったんですが、恋とかろくにしたことのない私はまったくそんな雰囲気を出せませんでした。切なさのせの字もない。
イソギンチャクは先輩なのにぞんざいな態度とかが気に入って、そこからギャップ的な何かにハマっていった、というところです。相手の心情が書けないのでそこが分からないところになってしまいましたが。
何だかイソギンチャクだとヒロインがツンデレ(笑)みたいになりますね。はは。これから名物?カップルになっていくんじゃないでしょうか。ツンデレちゃんっていうあだ名がつきます。
まだ書きたいネタがいっぱいあるので、番外編でやれたらなぁと思います。

わたしを素直にしたきみへ


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