「よ、名無し」
「お前また午○ティーかよ。好きだな」
「眠そーな顔してんな。ガムやろうか」
「……名無しお前、歌うときエロい顔するよな」
「これくらい北方じゃなくて俺に聞けよ!」
「星南のこと構いすぎだろ…」
「おい西園寺とカラオケ行ったって!?俺と行くべきだろそこは!」
あれからまた以前のように、いやむしろうっとうしく東条先輩が私の元へやってくる。ぶっちゃけクソうぜえ。会うたびならともかく教室にまで来るんだぞ。ふざけんなよ。
「瀬尾梨愛されてんねー」
「あんだけアプローチされて何で何も返さないの!?」
「嫌がらせでしょ完璧…」
アプローチって、どう考えても私を困らせることが楽しくてやってるに違いない。こんなオタ女、東条先輩みたいなのが好きになるわけない。うん。兆が一そうだとしたら、一体どこを好きになったって言うんだ。
大体私のいいとこって何?やべ、自分で言っといて涙出てきそう。
そんな頑なに信じようとしない私に友人たちが呆れる。
「いい加減信じなよ、嫌がらせでもあそこまでしないって普通」
「そう、かな?」
「「うん」」
「ハモられた!?」
……もし、本当にそうなら、やっぱり先輩は変な人だ。そう思った。
それから数週間。ちょっと分からないところがあったので、私は先生に聞こうと研究室に向かっていた。
「東条、また後輩んとこ行ったのか?」
「おう」
あ、東条先輩だ。友達を何人か連れて歩いている。実習か何かだったのかな?無意識に足は止まった。
「飽きねーなー。フラれてんだろ?」
「ちげーよ!」
「しっかし、俺その後輩見たけどさ、めっちゃ仏頂面だったぞ。愛想なさそうだし、どこがいいんだよ」
本当だよ。もし仮に好きだとして、どこよ?
友達の問いに先輩はからりと答える。
「まぁ、確かに俺のタイプじゃねーな」
――――ほら、だから言ったじゃん。私をからかってるだけだ、って。
分かってた、分かってるはずなのに。頭の中は真っ白で、何の音も入ってこない。
これ以上先輩の言葉を聞くのが怖くて、元来た道を引き返す。
別に私は先輩のこと好きでも何でもないんだし、嫌われたっていいはずなんだ。そうだよ。
なのに、胸が痛い。ざっくりと鋭利な刃物で刺されたような痛みだ。
ねえ何で私泣きそうなの?どうしてこんなに心が痛いの?
好きじゃない、好きなんてない、そのはずなのに。
どうしてこんなに心が痛いの。誰か教えて。
私を好きな東条先輩なんかいない、いらないのに。
目から何かが出てきた。拭う余裕なんて今の私にはなかった。ただひたすら走った。
ねえ、心が痛くてたまらないよ。
あと1話て…私やべえ。何これ。
話が3話で終わる少女漫画みたいですね。そんなもんです。
言いたいことは最終回で言います。