……おかしい。これはおかしい。いや、歓迎すべきことなんだろうけれども。
東条先輩に今週に入って一度も会ってない。
いいことだ。あんな見た目からして変人に関わらないということは。その代わり舞先輩(そう呼べって命令された)はひどく追いかけてくるけど。でも東条先輩関連で噂されるなんてことはなくなるだろう。よし私の悩みの種は一個減った!
……でも人間って奴は慣れてしまったものが急に変わると違和感を持つようで。
「瀬尾梨ー、東条先輩教室来ないね」
「前まで瀬尾梨ーって話しかけてきたのにねえ」
「むしろ嬉しいけどね」
「もー、瀬尾梨がそんなこと言うから愛想つかしたのかもよ?」
「それでいいよもう」
「くっそムカつく瀬尾梨のくせに」
「何だとコラ」
私があまりにも冷たいから愛想つかした、うん、そうだね。そりゃそうだろ。少なくとも好意を持って(多分)接してるのに冷めた反応、誰だって嫌いになるわな。別に嫌いになってもいいですけどね。
別に、この違和感なんて気のせいだ。そうに決まってる。
そして金曜の放課後になった。
「瀬尾梨、後片付けよろしくー」
「くっそう、月曜覚えてろ」
笑顔でひらひら手を振る友人たちを睨んで負け惜しみながら手を動かす。じゃんけんで一発負けしたから授業の片付けをしなくちゃいけない。今日はバイト休みだから残って、しかもパーなんか出すんじゃなかった。
「よし」
全て片付け終わり、軽く一息つく。私も白衣脱いで眼鏡外して帰ろう。
そこでふと外を見た。夏だからまだ日は高い。何気なく視線を下にやる。
「あ、東条先輩」
久々に見たな。実は見てすらもいない。先週の金曜から全然会ってないし。ここから見る限り、普段と変わらず傲岸不遜な笑みを浮かべていて、元気そうだ。あまりにも見ないから風邪でも引いたと思ったのに。バカだし。
「って、何で私が先輩の心配しなきゃいけないんだ。アホか」
そうだ、変人とは関わらないに限る。なのに一昨日から頭に浮かぶのは東条先輩のことばかりで。あぁ、もう、何だってんだ。早く帰って絵でも描こう。今日は誰を描こうかな。
下駄箱に着いて、自分のローファーを取る。電車、何時かなぁ。昇降口を潜り抜ける。そのとき、前方に誰か立っているのが視界に入る。
髪型イソギンチャク、ネクタイは首に巻きつけ、ゴーグルバンド、肩出し腹出し露出狂。
「東条、先輩」
「名無し。久しぶりだな」
東条ウラジその人だ。一週間会ってないっていうのにその差を何とも思わず近づいてくる。
「どうも…」
「俺結構忙しくてお前んとこ行く暇なかったんだよ」
「……一週間も?」
「おう」
そうか。こんなんでも先輩だし、忙しいときもあるか。そうか。納得していれば、先輩は意地悪く口元を歪めている。
「…何ですか、ニヤニヤして」
「俺に会えなくて寂しかったか?」
「………はァ?」
本格的に何言ってんだこの人。大丈夫か?そんな寂しかったとかんな乙女チックな感情、私が持っているとでも?恋愛的な意味で好きなわけでもあるまいし。
「いえ別に」
「へー。そんな奴が一週間なんて具体的な数字出すんだなあ。初めて知ったぜ」
いちいち嫌みったらしい言い方する人だ。北方先輩並みじゃないか。眉間の皺をさらに深く刻ませて、私は尋ねる。
「何が言いたいんですか?」
「いや、何にも」
何なんだよマジで。答えをはぐらかされて胸がもやもやするんですが。
「そうだ、名無し、今から帰りだろ。送ってってやるよ」
「え、別に…」
嫌ですよ先輩みたいな恰好の人と歩いてたら私まで変人だと思われるじゃないですか、っていうか先輩は私みたいなのと帰ってあれ彼女とか思われていいんですか?それに忙しかったんですよね、じゃあ休みたいでしょう先輩も家に帰ってゆっくりしたらどうですか。
そう言おうとしたのに、喉から出た言葉は違った。
「……よろしく、お願いします」
私が何言ってるんだろう。家まで変人と一緒とか本気でありえないのに。でも、撤回する気は何故かなかった。
私の返事に東条先輩は一瞬目を丸くしたけど、すぐに元の表情に戻った。
「ところで名無しんちってどっちだ?」
「こっちですよ。ちなみに電車ですけど、先輩大丈夫なんですか?」
「……おう」
「切符代払いませんからね」
「んなことしねーよ!」
それからにかっと笑って私の頭をぐちゃぐちゃにする。あぁもう、ただでさえぐちゃぐちゃなのにさらにひどくするのやめてくんないかな。それにしても、心臓がうるさい。
……別に、好きじゃないし。こんな変人。でも動機は止まってくれなかった。
だから、好きなんかじゃないってーの!
押してダメなら引いてみる。なお話。他ジャンルと被りましたがまあいいですよね!そんなことありますよね!
連載してるわりにはあんまり絡んでないような気がするんですが気のせいです。気のせいです。そんなこと言ったらこの話全部そんな感じになってしまいますあはははは。……すいません。
あと2話で終わりです。