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BLコンテスト・グランプリ作品
「見えない臓器の名前は」
- ナノ -

「またレポートか…めんどくさっ」

「しょうがないじゃん理系だし」

「でも今週で三つだよ?辛くね?」

「大丈夫、私何も出してない!」

「いや出そうよそこ」

授業後、言い渡された提出物の多さにうんざりする。友人たちと笑っていると、広瀬が言った。

「ね、あれ東条先輩じゃない?」

「え?」

言われて左を見た。ガラス越しに後輩へ指示する東条先輩がいる。いつもへらへらしてるくせに、なかなか真面目な表情をしている。ふーん。そういえばユーリ学部長に気に入られてるみたいなこと、細田が言ってたな…。

見たことのない東条先輩を見つめていれば、細田と広瀬がニヤニヤしている。何だ全く。

「瀬尾梨、やっぱり東条先輩のこと…」

「瀬尾梨のくせにリア充め」

「わけわからん」

なんで感心してるだけで好きだとかリア充だとか言われにゃならんのだ。私は166以上でそれなりに優しくてオタクを理解できんと無理だぞ。まあ確かに少なくとも166以上ってのはクリアしてるけどさあ。

これ以上からかわれるのも嫌なので、私は先を促した。

「早く行かなきゃ遅れるよ」

「そうだ、次藤沢先生じゃん!」

「怒られるっ」

廊下を走る間、さっきの東条先輩の顔がやけに強く残っていた。







「なんでこう、私は使いっぱにされんだ畜生…」

放課後になってとっとと帰ろうとしたら、先生に呼び止められて資料持ってけと命令された。女だっつーのに結構な量持たされて、私の腕は限界に近い。肩には荷物のエナメル、手には資料。重い…。

「ん、っと」

言われた研究室までどうにか運び込み、ドアを足で無理矢理開ける。誰もいないからいいだろ。うんうん。
あー、腕いった。帰るか。机に資料を置いてすぐさまドアノブに手をかけようとしたとき、キーボードを叩く音。誰かいんの?

音が聞こえる場所まで近づくと、東条先輩がパソコンを睨めっこしていた。納得のいかないような顔でスクリーンと格闘している。レポートか。先輩苦手そうだもんな。
でも乱暴にドアを開けた音も資料を置いた音でも気付かないなんて、よっぽど集中してるんだ。ふーん。

「くそ、まとめにくいんだっつーの」

頭をかきむしる先輩。ここで邪魔しちゃ悪そうだ。いくら私の平凡オタライフを崩壊させた人物の一人とはいえ、真面目にやってる人の邪魔をするほど私は腐ってない。そっと離れて出ようとする。


……そうだ。

私はエナメルから家で作ったクランチを取り出して、ドアノブにひっかけておいた。一応、お疲れ様です、というメッセージも添えて。
トウカにあげるつもりだったけど、あげそこなっちゃったし。いいか。
そして静かにドアを閉めた。







「名無し!」

「…何ですか、東条先輩」

翌日の昼。自販機から午○ティーのストレートを選んで押したら、東条先輩が軽く手をあげて声をかけてきた。

「昨日はありがとな」

「…何がです?」

「これ、置いてったのお前だろ?」

そう言って見せたのは確かに私が引っかけておいたクランチの袋。でもここで肯定すんのは何だか恥ずかしい。普段そっけない態度だから。だからすぐに顔を背けて自販機からペットボトルを取り出す。

「他の人じゃないんですか?」

「この字はどう見ても名無しの字だろーが」

「ちょっ、なんで先輩が私の字知ってるんですか!」

「前無理矢理書かせたっぽい紙を西園寺が見せつけてきた」

本気で何してんだあの人…頭いてぇ。ため息を軽くつき、東条先輩をちらりと横目で見てまたすぐ視線を逸らした。

「……まあ、そうですけど」

「うまかったぜ。シナモンがよくきいてて」

「どうも…」

何だか照れくさくて目が合わせられない。ずっとそんな風にしていると、頭を掴まれて無理矢理向かせられた。って、顔ちかっ!!


「また作れよな」


そう言って先輩は私の額にキスを落とした。

「じゃあな、名無し」

……やっぱりあんな露出狂にちょっとでもときめいたかもしれないなんて、きっと何かの間違いだ。そうに、違いない。




普段軽い奴が真面目になると感心というか、へえ、という気になりますよね。私はハナから興味も何もない枯れてる奴なので恋なんぞに発展しませんが。三次元の男子は大半どうでもいいです。あはは。
ヘタレのくせにキスよくできたねって?そうしなきゃヒロインアホなので分からないからです。あと細田と広瀬は友人ABです。
早く7巻発売してイソギンチャクの存在が皆さんに知れ渡りますように!!活躍は8巻でしょうけどね!!!
……べ、別に寂しくなんかないんだからねっ!

いつもと違うきみだったから


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