波打ち際は水色サイダー | ナノ
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「江の島島民に告ぐ!島内に水で人を操る未確認生命体が潜んでいます。水を飲んだり、水を使用しないでください」

表がやけに騒がしい。何だろうと思って店内から外を見た。Dと書かれた黄色い戦車みたいなのがそこら中を走っている。何、あれ。

いかぶしんでいると、ぞろぞろと店の中に真っ黄色なスーツに身を包んだ人たちが入ってくる。当然お客さんは怯えている。私も調理中の手が止まった。
流石に不審に思った菜保子さんがガスの火を止め、彼らへ近づいた。

「ちょっとお客さん、営業妨害で訴えますけど?」

「我々は怪しい者ではない」

「どっからどう見ても怪しいんですが?」

「日本政府の許可を得て行動している。我々が許可を出すまで、水を使ってはならない」

「はァ?」

つまり、表で放送しているように、水で人を操る宇宙人がいるので水道水もダメらしい。……宇宙人?大丈夫かこの人ら。全員暑さでやられたか。菜保子さんも同じことを思ったのか、失笑した。

「そんなこと馬鹿なこと言われても…」

そのとき、外で江の島踊りを踊る集団がぞろぞろと歩くのが見えた。変な団体の人たちはそれをすぐさま視界に捉えると、店を出て持っていたドライヤーで乾かし始めた。リーダーらしい人はさらに眉をひそめる菜保子さんへ言った。

「水を使えば貴方も、店員も客もああなる」

その言葉に、菜保子さんはその人を睨んで、チッと舌打ちした。怖いです、菜保子さん。





店の片付けもそこそこに、私たちは全員避難バスに乗せられた。状況が全く掴めていない。そもそも何が起こっているのかも分からない。


……そういえば、ハルは前から宇宙人って、言ってたな。まさかね。宇宙人だとしても、江の島侵略なんてしないよね。江の島好きだって言ったもん。杞憂だ。

バスに揺られながら、自分に言い聞かせる。でも不安は拭いきれなくて。ぼうっと流れていく風景を見つめた。

「どうしたの、名前ちゃん」

「あ、いえ。何でも…ただ、ハルが心配で」

隣に座っていた菜保子さんが尋ねる。ハルだけじゃない。夏樹や、ユキや、アキラだって。皆心配だ。夏樹はさっきメールが来たけど、他は何も来ていない。つい携帯を握りしめてしまう。
そんな私を見て、菜保子さんは優しく頭を撫でた。


「大丈夫。あの電波君はきっと悪くないよ。名前ちゃんは分かってるでしょ?」


そうだ。ハルは絶対悪くない。今バス内から聞こえるアナウンサーの言っていることだって嘘だ。ハルはきっと、たった一人で何かをしようとしているんだ。


ハルは、全然考えていることが分かんなくて。やることなすこと全部私やユキや夏樹、周りを巻き込んでばっかりで。常にハイテンションだから相手するの疲れるし。でもその底抜けに明るいところが憎めなくて。無邪気で、純粋で。

そうだ。そんなハルが侵略なんて、するわけない。宇宙人だとしても、関係ない。

「菜保子さん」

「何?」

「ありがとうございます」

菜保子さんのおかげで、頭の整理はついた。礼を言う私へ、菜保子さんはとぼける。

「ん?私は何もしてないよ?」

言いつつ、口元には弧を描いていた。


――――ハルに、会いたい。会って話がしたい。


頭の中は、それだけしかなかった。






「夏樹!」

「名前」

避難所に着いた。菜保子さんたちとはそこで別れて、まずは家族を探そうとした矢先、夏樹が難しい顔をして体育館の隅で座っていた。さくらちゃんや保さん真理さん、海咲さんや井上さんは周りを見渡せばすぐ見つかったけど、肝心のユキがいない。

「ねえ、ユキは?」

「……あいつ、名古屋」

「名古屋?どうやって」

「俺が知るかよ」

舌打ちでもしたそうに夏樹が吐き捨てる。どういうことなの?わけがわからないよ…。
二人の間に沈黙が振りかかったとき、Duckの一員が近づいて私たちへカレーを差し出した。

「いらねえよ」

「しらすは抜いておいた」

「…って、アキラ?」

差し出したDuckの人はアキラだった。隠していたことに侘びてからアキラはとんでもないことを言いだした。

「なあ夏樹、釣りしないか?」

「はぁ?何言ってんだよ、こんなときに…」

全くだ。呆れる私たちにアキラは続ける。水で人を操る宇宙人を釣り上げるためにハルはやってきた。だから俺たちで釣り上げようZE!いつになく熱いアキラへ夏樹は若干引き気味に言った。

「何言ってんだお前、頭おかしくなったのか?」

そのとき、しわがれた声が聞こえた。体育館の中央に目を向ければ見れば、えり香のおじいさん。龍の怒りとか、何とかDuckの人に訴えている。何言ってんだろ…。

「ちょっと待ってくれ」

そう断ってからアキラがおじいさんを体育館から追い出した。私と夏樹は不思議そうに顔を見合わせた。ほんとに、何?





あの後、アキラとえり香のおじいさんに連れられて、図書館へ行った。見せられた絵巻物には江の島踊りが描かれていて、今の状況とそっくり。龍の怒りを収めるためにはどうしたらいいのか?夏樹の質問におじいさんは言った。釣りじゃ、と。

そういうわけで、私たち、夏樹・アキラ・さくらちゃん・保さん・真理さん・海咲さん・井上さん・えり香・おじいさんは科学室にいる。

ハルを探そう、ってなったとき、保さんが異論を唱えた。

「待て!でも夏樹、お前の身に何かあったら俺は…」

拳を打ち付ける保さんの声には、悲痛がこもっている。そんな保さんに、夏樹は優しく言った。

「親父」

大丈夫だよ、と呟いてから、自信に満ちた表情で。


「俺は釣り王子だぜ」


王子なんて称号、正直聞いてるこっちが恥ずかしい。でもその言葉はやけに頼りがいがあって。成長したな、夏樹。なんて隣でくすりと笑った。

「で、アキラ。どうやってここを出るんだ?」

「それは、俺に任せろ。皆さん、お芝居の経験は?」

『は?』

何じゃ、そりゃ。





「名前ちゃん!」

概要を聞いて、役割分担して。さくらちゃんと真理さんを置いて出て行こうとしたとき、さくらちゃんが私を引き留めた。

「何、さくらちゃん?」

「あのね、これ、名前ちゃんにも。渡してなかったから」

そう言って手渡されたのは、あの黄緑ビーズのブレスレット。でも、何で今?首を傾げる私に、さくらちゃんは言う。


「さくらも、一緒だからね。絶対名前ちゃんも、帰ってきてね!」


ぎゅっと手を握る。その小さな手は、寂しさでちょっとだけ震えていて。私は安心させるために笑みを浮かべた。

「……うん。絶対、帰ってくるよ。ハルを連れて、戻ってくるよ。ユキもきっと来てくれるから」

だから、大丈夫。さくらちゃんの頭を撫でて、ようやく私も走り出した。


行かなきゃ。友達のために、行かなきゃ。江の島を守るとか、そんな大それた目的なんか私にはないけれど。行かなきゃいけない。それだけは分かる。


――――ハル、今、会いに行くよ。






それは導くサーチライト




色々すっとばしてますすいません。あとろくに喋ってないわ話しか進まないわハルのことしか考えてないわでひどいですね。
今回はハルの立ち位置。めんどくさいけど、いなくなったら寂しい大事な友達、というか。
ユキやアキラは次、かなと。無理矢理入れます…。終わるかな後二話で。
最初にオリキャラが出張ってますね。今まで一二話、いや一話だけか、しか出てこなかったのに。でもあそこで励ましてくれるのは彼女しかいないかなと思い。
タイトルはハルを探そうとする皆ってところですかね。こじつけ←


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