波打ち際は水色サイダー | ナノ
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「#寸止め」のBL小説を読む
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「あーあ…渡し損ねた」

ったくあのアホのせいだ。私は渡す予定だった切り絵のメッセージカードとケーキの写真を見た。ケーキめっちゃ頑張って作ったのに。切り絵だって不器用だけど頑張ったのに。

軽くため息をついて、ベッドに潜り込む。疲れた。明日バイトなのに。夏樹のバカ。そんなとき、ミクの着メロが聞こえた。誰だよこんな時間に。多少苛立ちながら携帯の着信ボタンを押す。

「もしもし、あれ、海咲さん?」

『名前ちゃん、さくらちゃん見てないよね?』

何だかこのセリフにデジャヴ。鼓動が速くなり、脈打つ音が大きく感じられた。

「見てません、けど」


『どこにもいないのよ!』


「え…」

言葉を失った私に海咲さんは謝り一方的に切った。え、ちょっと…行方不明って流行るもんなの?

「もう、どいつもこいつも!」

探さなきゃダメでしょ、これ!私はベッドから起き上がった。







皆で探し回ってるのにさくらちゃんは一向に見つからない。

「もうどこなの…」

やっぱり昼の一件のせいなのかな。あー、ダメなお兄ちゃんだなまったく。
疲れてゆっくり歩いていると、ベンチに座り込んだ夏樹を見つけた。声、かけるか。正直かけにくいけど、さくらちゃんのこともあるし。

「夏樹」

「名前…。俺、どうしたらいいんだろうな」

夏樹の顔は夜のように暗く沈んでいた。自分が強く言ったせいでさくらちゃんがいなくなったって、責任を感じているんだ。
どうしたらいいなんて私が勝手に決めていいもんじゃない。夏樹の隣に腰掛けて、私は問う。


「夏樹はどうしたいの?」


家を守らなきゃとか、プロになりたいとか。私にはそんなたいそれた夢はない。なりたいかもなっていう程度。だから悩んでるのに不謹慎だけど、そんな夏樹がちょっと、羨ましい。

「プロになりたいの?家にいたいの?」

「俺、は――――」

「夏樹!」

夏樹が何か言おうとしたとき、ユキがそれを遮った。アキラもいる。そこでさくらちゃんを探していたことを思い出してまた苦い表情に戻る。

「くそっ」

「夏樹、落ち着け」

「分かってる、分かってるよ!」

ユキが昼のことで夏樹に謝罪する。でも夏樹はさくらちゃんのことで頭がいっぱいみたいで、ユキにつっかかる。ユキはただ静かに言う。

「俺には分からない。親とか兄弟とか、いないから。俺の親、いなくなっちゃったから」

……え。


「家族には色々あるのかもしれないけど、俺はお前が羨ましい」


ユキの突然のカミングアウトに驚きながらも、<家族>という単語がやけに心に残った。

――――家族、かあ。






夏樹が思い出して走り出した場所は、昔宇佐美家とよく行ったところだった。夏樹のお母さんにアイスよく奢ってもらって。アイスで口の周りべたべたにしたっけ。
夏樹に抱きついて泣きじゃくるさくらちゃんに、お兄ちゃんはただ優しく言う。

「寂しかったよな。ごめんな、兄ちゃん気付かなくて」

兄妹の微笑ましい場面をぼうっと見つめる。私、お姉ちゃんとあんなことしたっけ。分かんないや。小さい口喧嘩はするけど、それくらいだし。分かんない。

「……名前、どうした」

「ん…羨ましいなって」

「お前は姉がいるんじゃなかったのか」

「でも、やっぱ違うよ」

違うよ。もう一度繰り返し呟く私に、アキラは何も返さなかった。


真理さんや保さんと入れ替わりに夏樹がこっちへ来る。

「ユキ、名前。悪かったな」

離れようとするアキラにも視線を向けた。

「アキラ。ありがとう」

そしてさくらちゃんや真理さん、保さんに。夏樹の顔は、まだ寂しそうだった。


家に戻った。あ、そうだ。私は軽く別れの言葉を言って玄関を開けようとする夏樹を引き留める。

「ねえ夏樹!」

「何だよ」

「ちょっと待ってて!」

ドアを勢いよく開けて、階段を駆け上る。机にある切り絵のカードを手に取って、冷蔵庫からケーキを出し、また外に戻る。


「誕生日、おめでとう」


夏樹は目を丸くさせてまばたきしている。そんな夏樹に無理矢理手渡す。

「あ、ああ…ありがとう。何だ、これ」

「あ、それまだ開けちゃダメ!私が恥ずかしいから!絶対部屋で読んでよね!誰にも見せちゃダメ!」

「何書いたんだよ」

「開けてからのお楽しみー」

悪戯っ子のように笑い、バックステップして今度こそ家に帰る。あー、なんか疲れた。寝よ。

ドアを閉めようとした瞬間、

「名前!」

「何?」

まだ何かあんの。言っとくけど文句は受け付けないよ?


「色々、ありがとな」


「……ん」

本当はもっと言いたかったけど、その言葉が聞けただけでよしとしよう。ドアが閉まったときの夜風がすうっと家の中に入っていく。私の心にも。

「名前ー、お風呂入っちゃいなさい」

「はーい」

「名前、映画いつ見る?」

「えー、どうしよっかなー」

「名前、やっといたからね」

「あ、お父さんありがとー」

家族とのなんてことない会話が、今は何故か妙に愛おしかった。






夜風のマーチ




何が書きたいのか自分でもよく分からなくなってきました。わー。でも夏樹はどうしたいの、とか家族いいなって言わせたりできたので。
まあ恋愛だけがメインな話ではないのでこれは。いいかなあとは思っています。<青春>してればいいのです。進展とかからきしない恋愛とか、家族って何って哲学っぽいこと考えたり、友達とただ過ごしたり。そんなんでいいのです。
と言って誤魔化してみます←
次は短めかもしれない。ちょっと休憩して、あの話です。


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