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「#総受け」のBL小説を読む
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不幸なのはあなたではありません



うわぁ、キスとか初めて見た。つーかあの先生色々やばい。あとあれだけ胸でかいと将来垂れそう。湊の外国人女教師に対する感想はたった三行だった。小学生の作文並である。

イリーナ・イェラビッチ。突然E組にやってきた女教師。正体は殺せんせーを殺しに来た暗殺者。

「あはは、ビッチねえさんすごいねえ」

軽いカルマの笑いが何だか癪に障る。

「赤羽もしてもらえば?」

「勘弁。湊からなら大歓迎なんだけど」

「しねーよ。どうせ野郎はああいうのがタイプなんでしょしね」

「なんで決めつけんのさ。俺は特に…あ、湊のなら別」

湊もカルマからのさらりとくる攻撃には慣れたもので、右から左へ受け流す。ここ数日でスルースキル検定3級にまで上がったのではないかと自負している。

「どうせあんたもあれでしょ、D以上が当たり前みたいな奴でしょしね」

「えー湊もなかなかだと思うよ、った!」

言い終える前にカルマの足を蹴り上げ、鈍い音を立たせる。湊の顔は羞恥と怒りで真っ赤になっていた。

「死ね!タヒれでも氏ねでもなくしねでもなく死ね!!死ねバカルマ!!」

「……っ、さっきの、マジ痛か、っ!ちょ、湊やめ、本気で痛っ!」

「死ね死ね死ね死ね死ねバカ!!」

ひとしきり満足した後、湊はボロボロの校舎へと戻って行った。可愛いなぁなんて呑気なことを思っている間、イリーナ含めクラスメートから何とも言えない眼差しを注がれていることなどカルマは知らないのだった。



「それに聞けばあんた達E組って…この学校の落ちこぼれだそうじゃない。勉強なんて今さらしても意味無いでしょ」

イリーナが殺せんせーに『手入れ』された後の授業。彼女は言ってはならぬことを口にしてしまった。教室の空気が一気に変わる。

落ちこぼれ。落ちこぼれ。E組にきてから何度聞いた言葉だろうか。成績は確かに下がった。だけど普通の学校基準から言えばきっと上位レベルなのだ。でも『ここ』は、普通ではない。決して普通ではなかった。


皆が罵倒と共に消しゴムやらコンパスやら投げている間、湊はひたすらじっと俯いていた。

――――湊ちゃん今度からE組なんだってー。

――――日曜遊ぶ予定だったけど場所変えてハブろー。

友情なんてものはあっさり壊れ、全部消えた。自分のやってきたこと何なのかと哲学的に考えたくらいだ。親は慰めてくれたし、色々教わっている人からは学校潰すとか言ってくれたくらい怒ってくれたから、もう気にしてはいなかった。
でも落ちこぼれ、なんて何度聞いても慣れるものではない。慣れてたまるか。ふつふつと汚い感情が煮え立ち、渦巻く。

「どしたの湊」

「別に」

隣の席のカルマは先生の言葉に目を細めたが、元に戻っていた。いつもの軽い赤羽業だった。彼だってきっと怒っているに違いないのに。

「あ、ビッチねえさんの気にしてんの?」

「うっさい」

誰にも話しかけてほしくなかった。一人でがりがり何かをしていたい気分だった。なのにカルマはいやに明るい。俯いたままの湊の顔を覗き込むようにして赤羽は言った。


「湊が頑張ってんの、俺知ってるからいいじゃん。ビッチねえさんに言われたくらいで。料理とか色々やってんだろ」


なんでそんなこと知ってんの。ありきたりな慰めとかいらない。湊はそんな可愛くない返しをしようとした。けれど、これはカルマなりに重く受け止めないようにという気遣い、なのかな。


「……ありがと、赤羽」


そのことに気づき、微笑んだ。途端に目を丸くするカルマが面白くて、さらに湊は場の空気を読まずに声をこらえて笑った。



生徒からの攻撃を受け、一時撤退した後現れたイリーナが突然態度を改めた。何故だかは知らないが、とりあえず湊はツンデレ可愛いで締めくくった。三次元のツンデレとかねーわと考えていたが、イリーナに限ってはそれはないようだ。
くだらないことを頭に浮かべながら、湊はそこであることを思いついた。

「あの、イリーナ先生」

放課後。湊は苛立ちを隠そうともしないイリーナを呼び止めた。

「何よ…って、あんたはビッチ先生って言わないのね」

「まあ、流石にビッチ先生はないと思ったんで」

いくらファミリーネームの略称とは言え、学校でビッチビッチと連呼するのは気が引ける。

「そうよ!アンタ分かってるじゃない」

イリーナは湊の言葉に満足してふふんと豊かな胸を反らして鼻を鳴らす。どうやらファーストネームで呼んでも大丈夫らしい。安心して本題に入る。

「あのー、私英語もっと上手くなりたくて、せっかくだから発音教えてほしいんですけど」

湊が料理を教わる女性は言う。英語と中国語は話せると楽だから慣れてこう、と。本人から教わりたいのだがそこまで世話になるわけにはいかない。だからイリーナに目をつけたのだ。殺せんせーでもいいが、怖いし。

「あぁ、そんなこと。いいわよ、どんどん聞きなさい」

「ありがとうございます、イリーナ先生」

頭を下げて礼を述べる湊。イリーナの中で黒瀬湊という女生徒を可愛がることを決定事項にした。



ビッチ先生回。これも繋ぎ合せました。ちょっと無理あったかな。まあいいや。最後にビッチ先生と微妙に絡んでみたり。カルマ君以外ろくに絡まないので…絡んでほしいキャラがいたらなんかください。頑張ります。
タイトルはW.A.モーツァルトより。カルマ君からヒロインへ贈る言葉的な感じで。