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「#寸止め」のBL小説を読む
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幸福な間違い



湊は、レストランを経営している女性に料理を習っている。夜遅くなることもあり、その女性か店員が家まで送ってくれるのである。
カルマはそれが嫌だった。

「ねえ、湊の通ってる店、教えて」

「え?」

カルマは湊へ言った。今日はその教わる日であり、一度家に帰って道具を持っていくらしい。ちょうどいいと思い、頼んでみる。

「いいけど、迷惑かけないでよ」

「分かってるって」

道具を取りに行く湊を待ち、店へ向かう。会話しながらついていくと、案外時間はかからなかった。カルマも来たことのある道だ。

店はいかにも人気がありそうなおしゃれな外観をしている。夕方なのに中には席はほとんど埋まっていた。
裏側から入っていく湊に続く。

「お、湊ちゃんおはよう」

「おはようございます」

物置を通り過ぎようとしたところに、青年がきらりと笑った。カルマはこの青年を知っていた。以前、湊を送っていった男だ。背が烏間より高く、磯貝並に爽やかで、しかし色気もある。男にしては長い髪を三つ編みにしていた。

あのときの感情を思い出し、カルマは顔をしかめた。青年の目がカルマを捕らえた。

「お、その子が彼氏?」

「え、あ、」

「そうでーす。手ぇ出さないでねお兄さん」

「バカルマ!!」

見せつけるように湊を体へ引き寄せた。予想通り罵られたが、気にしていられない。

「はは、そんなことしないって。あ、オーナーが待ってるから、着替えてきな」

からからと笑い飛ばし、湊の頭を撫でる。心の内がざわつく。青年は段ボール箱を厨房へと持っていってしまった。その背は大きく、やはり頼りがいがあった。

「じゃ、私着替えてくるけど。カルマはどうするの?」

「……邪魔にならないようにいるよ」

「ついてこないでよね」

「なんだ、見たかったのに、いたっ!」

冗談のつもりだったが蹴られた。無視して湊は更衣室らしい部屋へ消えていった。
もう一度あの青年が戻ってきた。カルマを視界に入れると笑って手を挙げた。白い歯が光る。年上の余裕が、カルマには気に食わない。

「今日は送るまでいるのか?」

「ここで俺が帰ったらお兄さんが送ってくんでしょ」

「今日は俺じゃないと思うけど、まあ、そうなるな。危ないし」

「だからいる」

子供っぽいカルマの態度に気を悪くすることもなく、青年は穏やかに笑った。ますます癇に障る。
眉間にしわを寄せるカルマに、青年は言った。

「君の話、湊ちゃんからよく聞くよ」

「…………」

「怒りながら、戸惑いながら、でもどこか嬉しそうにさ。よっぽど好きなんだろうな」

「……へえ」

「最近幸せそうだから。君が湊ちゃんと付き合ってくれてよかった」

嫌味ではなかった。純粋に湊の幸福を祈っていた。ここまで言われてしまうと、嫉妬していた自分が馬鹿みたいだ。下心などないと分かっていたのに。これが年上かと、カルマは器の狭さに舌打ちした。

「お兄さん」

「ん?どうした?」

「ありがと」

「どういたしまして」

照れくさそうに言うカルマへ、青年は爽やかに返した。
青年が行ってしまった後、湊が戻ってきた。

「あのさ」

「何?」

「さっきのお兄さん、いい人だね」

そう思った。お人好しという意味ではなく。ああなりたいとは思えないが。

「カルマがいい人、なんて。珍しいね」

物珍しそうに相槌を打った。湊は首をかしげ、厨房へと向かっていった。


でもこれからはついてこう。そう決心したカルマだった。



幸福な間違い




盛土さんからのリクエストでした。別の話で書いたことのあるイケメンに嫉妬しちゃうお話。あんまりヒロイン出てませんすいません。あと短い。
お店関連のお話はかなりオリキャラ出張りますがまた書きたいなと思います。
タイトルはガエターノ・ドニゼッティより。間違い、ではないですけれど。思い違いではあります。
本当にありがとうございました!