出席を取る前の一騒動から、カルマは超生物を殺そうとし続けた。
例えば、一時間目の数学。湊の一番嫌いな科目である。必死こいて殺せんせーの授業に耳を傾ける。その途中、いきなり殺せんせーの触手が伸びてカルマの爪をアートしたり。
「ちっ、後で落とさなきゃ…」
「……ふふっ」
「何笑ってんの湊。湊の数学の成績の方がウケるから」
「うううう、うっさい!黙れ赤羽!」
「そこ、授業中に私語を慎む!」
「は、はい、すみません…」
例えば、四時間目の家庭科。ある女性から教わっている湊には有利な教科だ。スープをこぼした隙に殺せんせーを刺そうとするも、胸にハートのフリルエプロンを着させられたり。
「黒瀬さんのすごーい」
「ほんとだ!一番おいしそう」
「へへー、料理結構得意なんだー」
「じゃあ俺にも作ってよ湊」
「誰が作るかハートエプロン」
「それやめてくれる」
「ハートエプロンハートエプロンハートエプロン」
「だからやめろって言ってるだろ!」
「ちっ」
「ねえ、湊、ほんとに明日弁当作って」
「やだめんどい」
「作って」
「やだ」
「作って」
「……やだ」
「作って。あ、酢豚絶対ね」
「子供か!」
「やだって言わなかったから作ってねー」
「何そのルール!?」
例えば、五時間目の国語。湊の最も得意な教科である。小説を読み上げる殺せんせーが通りすがった時刺そうとしたが、七三分けにされたり。
「くっそ、固められた…」
「今度は七三…ぶふっ」
「湊って意外と笑いのツボ浅いよね」
「赤羽がやるからなんか面白い。ハートエプロンとか爆笑した」
「だからそれやめて」
「オッケーネタにしてやる」
「……」
そんなこんなで、湊が見た限りではカルマは殺せず終い。帰り際もどこか焦ったように教室を出て行った。時間がたつにつれてひょうきんなところがなくなっていくのが目に見てとれた。大丈夫かな。少しだけ湊はカルマのことを心配した。
放課後、E組の友達と別れてふらり文房具屋に立ち寄ったら結構な時間になってしまった。湊は文房具屋と本屋なら何時間でも、むしろ住めると本気で思っている。家までの道を歩んでいた時、背後から声がする。
「おーい、湊!」
振り返れば、カルマと渚。
「潮田君!と赤羽」
「おまけみたいに言うのやめてくれる?」
「違うの?」
冗談半分で首を傾げてみる。カルマが何か言いたげに睨んできた。二人の間に渚が中立役として入る。
「黒瀬さんカルマ君っ、口喧嘩やめよう!うん!」
「喧嘩じゃないよこいつが絡んでくるだけ」
「相手してくれるだけ湊は優しいよね」
「ちげーよ無視できないくらいうぜーんだよ気づけ」
の、割には仲良いよなあ。渚は昨日から不思議に感じていたが、口にしたら湊は全否定するだろう。カルマと親交のあった渚としては応援したいので、それはやめておくことにした。
「そーいや赤羽さ」
「何?」
少しカルマを見たかと思えば、湊が言う。
「あんた目の色違うね。殺せんせーとなんかあったの?」
一見なんてことないようなセリフに聞こえる。だが二人には分かった。カルマは嬉しかった。自分が何か言えば棘のついた言葉しか投げかけない湊が、そんな風に言ってくれたことが。頬の筋肉が緩む。
初めて会った時もそうだった。この少女は、人を見るのが上手い。
「……何だかんだ言って湊は俺のこと見てくれるよねー」
「は?」
「黒瀬さんすごいね」
「え?」
何故か褒められて腑に落ちない湊を放り、カルマは彼女へ提案する。
「湊も行こーよ。殺せんせーの金で」
「盗んだのかよ!」
「いやしょぼかったから適当に寄付した」
「意味分かんない」
「ほら、行こう!」
そこで湊の手を握る。あまりにも自然すぎて湊は一瞬呆けてしまった。気付いたときには走り出していた。
「ちょ、ちょっと掴むな馬鹿ルマっ!」
あ、黒瀬さん名前呼んでる。カルマは喜びで分からなかったが、渚だけ分かった。名前をきちんと呼んだわけではなかったが、それでも一応カウントしていい気がする。
「待ってカルマ君黒瀬さん!」
渚はまるでカップルのような二人の後を追った。
結構前のを使い回しています。なんかセリフばっかですね。分かりやすく?繋げてこそいますが。
タイトルはアルノルト・シェーンベルクより。浄化されたカルマ君ってことで。